施術に際しての考え方、3つの区分け

 私たちが取り扱いう範囲において、からだが不具合や症状を抱えたり不調になったりする理由は、大きく筋骨格系の問題と循環系の問題に分けて考えることができます。
 筋骨格系の問題というのは、骨格の歪みや筋・筋膜の変調が主な原因になって生じる問題のことです。
 循環系の問題というのは、血液循環の不良が主な原因になって筋肉や神経の働きが悪くなり、その結果として筋・筋膜が変調し、骨格が歪んで生じる問題のことです。

 ですから私たちは、顧客の訴えを聞き、からだを観察したときに、まずは筋骨格系に主眼をおいて対処すべきなのか、あるいは循環系に主眼をおいて対処すべきなのかを判断して施術に臨む必要があります。

筋骨格系の問題への考え方と施術する部位

 からだを整える上で、私たちが注目しやすいところは実際に痛みや不具合などを生じている部位になります。
 たとえば腰痛の場合は、腰部や殿部や骨盤などに目が行きます。それはそれで正しいことですが、「実際に施術を行う部位と、不具合や症状を呈している部位は違う可能性が高い」という原則があります。
 ですから腰痛の場合、腰部や殿部の硬くなっている部位を揉みほぐしたり弛めたりしても、労力が無駄に終わってしまう可能性があります。あるいは、かえって症状を悪化させてしまう可能性すら生じます。

 影響部と被影響部の関係を追求していき、最終的な影響部、つまり症状をもたらしている大元の原因にたどりつき、そこを施術することで症状が自ずと消失する方法を目指すのが王道です。

 ですから、腰痛になっている直接的な変調を起点に、その影響部を探し、そしてそのまた影響部を探し‥‥、という作業を繰り返し行い、最終的に施術すべき部位にたどり着く必要があります。

 ところで、ケガや手術などによって皮膚や皮下筋膜や筋線維などが傷ついたり、あるいは内臓系の問題や冷えなどの要因を除いて、外界と直接接していない部分が大元の原因になることはほとんどありません。

 反対に言いますと、手や足、そして感覚器官など外界と接していたり、外界の情報を直接受け取っている部位は症状をもたらす大元の原因になりやすいと言うことができます。

手と足が影響部になる可能性

 私たちは日常的に手指を使っていろいろなものを触ったり操作したりします。
 ピアノを弾いたり、パソコンのキーボードを叩けば、指の筋肉や骨間筋を使います。ペンを使い続ければ、親指や示指をたくさん使います。何かを握れば母指球や小指球の筋肉を使います。あるいは手首を捻ったり、肘を捻ったりしていろいろな作業をします。
 ですから、これら手指の使い方の偏りよって、手~肘にかけての筋肉は疲労してゆるみ過ぎの状態になったり、あるいは使い過ぎによるこわばりの状態になる可能性が高くなります。

 また、私たちは二足で立ったり歩いたりしますが、その姿勢や動作のバランスをとるために左右で10本の足趾は微妙に動き続けています。あるいは歩行などにおいては、足首周辺の筋肉は重い体重を持ち上げ前方に動かすために力を発揮し続けています。

 ですから、足趾や足首周辺の筋肉は疲労しますし、変調する可能性が高いと言えます。

 以上のように手と前腕の筋肉、足と下腿の筋肉は直接外界と接触したり、直接外界に働きかける部位になります。

 ですからこれらの筋肉は変調を起こしやすく、そしてその変調が連動して体幹に及び、それが腰痛や膝痛やその他の症状や不具合をもたらす原因になると考えることができます。そして、実際、大方の症状や不具合はこのような仕組みによってもたらされています。

顔の感覚器官が影響部になる可能性

 私たちが体感できる五感には視覚(眼)・嗅覚(鼻)・味覚(舌)・聴覚(耳)・触覚(皮膚)があります。そして、これら感覚を受け取る感覚器官は光(色)・匂い・味・音・体性感覚を受け入れて反応する働きをしています。
 つまり、眼・鼻・舌・耳・皮膚は外界と直接接しながら外界からの刺激や情報を受け取っては反応していますので、「筋の変調」と似たような変化や変調を起こす可能性があります。

 例えばスマーフォンについつい夢中になってしまう人達がたくさんいますが、それは眼を酷使する状況を招きます。つまり、眼球に関係する筋肉や組織が疲労したり変調を起こします。眼精疲労、ドライアイ、近視などはその端的な症例ですが、頭痛や首肩のこりなど、その他の症状につながる影響部となります。

 ヘッドフォンやイヤフォンなどを使っていつも大きな音を聞いている人や、常に激しい雑音の中にいる人などは難聴になる可能性がありますが、そこまでいかなくても耳の器官が過敏になり、音が耳に入ると筋力が低下するなどの症状を招くことがあります。あるいは心理的にイライラしやすくなったりします。これらは音に対する耳の処理能力が低下したために起こる現象ですが、耳の状態が変調してしまい音に対する正常な反応ができなくなってしまったと考えることもできます。そしてその影響が骨格筋に及び、からだに不調や不具合を招く原因になることも十分にあり得ます。

 以上のように感覚器官が受け取る刺激や感覚器官の使い方によって、からだの骨格筋は影響を受けて変調を起こします。ですから、私たちは感覚器官が集中している顔面や頭部についても学んで、施術できる技術を身につける必要があります。

筋骨格系の問題に対しては手と足と顔への施術が原則

 以上説明してきましたように頭痛や首肩の痛み、肩関節や股関節の不具合、腰痛、膝痛など筋骨格系の問題(骨格の歪みや筋肉の変調など)による症状の影響部になる部位は、ほとんどの場合、手指や足、感覚器官になりますので、実際に施術する部位も手と足と顔が大半になります。
 ですから、筋骨格系の問題による症状を効率よく改善するためには、手と足と顔を確実に整える能力が必要になります。

 このサイトでは、手と足の筋肉や骨格について、非常に細かく取り上げていきます。

 手指の状態や手の使い方によって、手と前腕の骨格および筋肉の状態は決まってきます。母指側を中心に手を使っているのか、小指側を中心に使っているのか、それによって体幹~下肢の筋肉の使い方が決まってきます。同様に、足の使い方によっても体幹~上肢にかけての使い方が決まってきます。
 ですから、手や足の使い方を観察する能力も必要になりますし、施術において使い方が変わるように促す能力も必要になります。

 また、眼の使い方が偏っている人がたくさんいますが、それによって体幹は確実に捻れます。そして本人の自覚があるかどうかは別にして、必ずからだの何処かに不具合や不調が生じています。

 側頭骨が歪んでいる場合は、それによって耳の働きが悪くなっている可能性があります。左右で耳の聞こえ方に差が出たり、酷い場合には難聴になる場合もあります。
 片噛みや噛みしめ癖の影響で頚椎が捻れ、それが体幹のさまざまな症状を招いているがあります。

 からだに現れる様々な症状と、手指との関係、足との関係、頭蓋骨との関係、それらの関連性が自然と頭の中でイメージできるまで、学び、経験することが大切です。是非、そこまで進んでください。

筋骨格系の問題に対して、手・足・顔以外を施術するケース

 たとえば、一般に「ギックリ腰」と呼ばれる急性腰痛の症状は、筋肉や筋膜の創傷や損傷にが原因になって生じます。骨盤の中心部分にゆるみ過ぎが生じて筋肉が収縮できない状態になったために、まったく力が入らずからだを支えたり動作ができなくなってしまった状況です。椅子から立ち上がる時に腰部の筋肉が収縮できないので、からだを真っ直ぐにできなかったり、あるいは症状が重ければ、杖や何かにつかまり腕の力を利用しないと動作ができなくなったりします。
 肩関節を脱臼したり、関節を伸ばして亜脱臼状態になりますと、肩関節の働きが悪くなったり、五十肩のような状態になることがあります。この主な原因は肩甲下筋や棘上筋など肩関節を安定させる働きをする筋肉が損傷によってゆるみ過ぎ状態になっていることです。
 これらのように、体幹であれ、四肢であれ、ケガや打撲や捻挫などによって筋肉や筋膜や靱帯が損傷しますと、骨格が不安定になったり筋肉が働けない状態になってしまいます。ですから、そのような時には、その損傷部位の状態を改善することが必須であり最優先になります。
 また、手術によってメスを入れた部分の手術痕も皮膚や筋膜や筋線維がゆるみ過ぎの状態になっている可能性が高いと考えられます。
 ですから、捻挫、寝違え、打撲、骨折、ケガ、手術痕、靱帯損傷などが影響部になっている場合は、手・足・顔とは関係なく、そのゆるみ過ぎの部位を施術して変調を改善することが必須になります。

循環系の問題に対しては、手・足・顔にこだわらない

 筋肉は冷えに弱いという特徴があります。
 たとえばお腹が冷えている場合、腹筋はゆるみ過ぎの状態になることもありますし、こわばりの状態になることもあります。つまり、筋線維の働きに支障が生じるということです。
 そして腹筋の働きが悪いことで、手や足や顔(感覚器官)の働きに問題が生じる可能性があります。
 循環系にとって“冷え”は敵です。冬の寒い朝は手先がかじかんで上手く動かせなくなりますが、それは血管が締まってしまい血液の流れが悪くなって筋肉への血液供給量が減ってしまうからだと推測することができます。少しからだを動かすなどして体温が上がりますと血管が拡がって血液循環が改善し筋肉の働きも良くなります。
 また循環系に限らず、体内の深部温度が37°に満たない状態ですと酵素の働きが悪くなりますので、消化・吸収・栄養をはじめとして生理活動全般が不安定になると言われています。

 筋肉の正常な働きを保つためには血液供給は必須です。そして静脈やリンパの流れも循環系にとっては重要です。

 からだが重く感じる、頭が詰まったように感じる、むくみが激しい、呼吸が浅い等々、循環系の問題による症状もたくさんあります。そしてこのような場合は、手や足を施術するよりも、お腹を温めたり、足裏の反射区を刺激して体内温度を上げるような施術を行った方が適している場合もあります。

 ”むくみ”は循環系に問題があることの兆候です。

 骨格が歪んでいることで静脈とリンパの流れが停滞し、むくんだ状態になることもあります。あるいは内臓機能や生理機能に問題があったり、睡眠不足等々の理由によってむくみを生じることもあります。
 いずれにせよ私たちは、動脈の流れを改善するためには静脈系の流れも改善する必要があることを常に頭に入れておく必要があります。

 動脈血の供給が低下しますと筋肉の働きは悪くなりますが、動脈系を改善するするためには以下の点を考える必要があります。

  • 血圧など自律神経(交感神経)の働きも含んだ心臓―血管(動脈)の状態‥‥医学が担当
  • 静脈系の停滞を改善すること‥‥現時点では医学では苦手分野、私たちの担当

 循環系において私たちが施術できる対象はリンパ系と静脈系になりますが、リンパ管も静脈もともにそれ自身にはリンパ液や静脈血を循環させる力がほとんどありません。周囲の骨格筋の弛緩と収縮の作用を利用して循環させる仕組みになっています。
 ですから、骨格筋の働きをしっかりさせることが循環系に対して私たちが貢献できることになります。周囲の筋肉にあるゆるみ過ぎやこわばりの変調を取り除くことが具体的な作業ですが、そのためには骨格を整えることが重要になります。
 私たちのからだには手首、肘関節、肩関節、股関節、膝関節、足首(足関節)といった大きな関節がありますが、それらの関節の状態がどうなっているのかを判断できる能力と、そしてそれらの関節を整える技術は最低限必要になります。
 そして静脈とリンパ系を整えることができれば、動脈系への負担もなくなりますので、血液循環は速やかに大幅に改善されると思います。
 そうなれば”冷え”の問題に対しても私たちは貢献できると考えることができます。

タイトルとURLをコピーしました