しかしながら上部頚椎は全身のバランスと機能にとって根本的な役割を果たしている部位ですから、整体にとって重要なポイントです。なんとか苦手意識を克服して、苦手意識を感じたままではなく、普通の意識状態で施術に取り組むことができるレベルにまでは到達してください。
上部頚椎の下の第3頚椎~第5頚椎は頚部の中間になりますが、頚部の動きの柔軟性に深く関係しています。さらに頚椎の前には舌骨がありますので喉や舌の働きとも関係します。
また、耳の働きと第4頚椎は密接に関係しているという考え方もありますが、実際、耳の問題を解決するためには第3~第5頚椎と関係している筋肉の状態を整えることが重要になります。
第6頚椎と第7頚椎は胴体と頚部との関係が色濃く反映される部位です。胴体と頚部を繋ぐ筋肉群(椎前筋、斜角筋など)や肩甲挙筋と僧帽筋などの状態はこの2つの頚椎に影響を及ぼします。
ところで、頚椎と腰椎には関連性があります。いわゆる「ストレートネック」は頚椎の前弯が失われた状態のことですが、同様に腰椎の前弯も失われて正しい姿勢を保持することが難しくなります。また、第2頚椎や第7頚椎が捻れますと腰椎が不安定になって大腰筋の働きが悪くなることもあります。
頚椎と骨格筋
骨盤から頭部までつながっている背面の筋肉に脊柱起立筋があります。脊柱起立筋は脊柱に沿うように存在してますが、少なくとも縦方向に3に区分けできるライン状になっています。
最も脊柱に近い内側のラインを「側線1」と呼ぶこともありますが、それは脊柱固有筋群に分類される板状筋、棘筋、半棘筋などの筋肉群です。
そして、その外側部に側線2と呼ばれる頭最長筋、頚最長筋、胸最長筋など最長筋群があります。
腸肋筋群である側線3は上半身を捻る動作に深く関係しています。
ですから、頚椎に付着している骨格筋の中で頚板状筋、頭板状筋、頚半棘筋、頚最長筋、頚腸肋筋、頭最長筋などは、側線1、2、3の部分であると考え、頚椎だけに影響を及ぼすものではないので、下記の説明では除外してあります。
上部頚椎(環椎と軸椎)
但しその動き方は微妙で、環椎自体は瞳を向けた方に動きますが、同時に同方向に少し回旋もしますので後結節が反対側に動いていると感じるかもしれません。瞳を右側に向けたとき、環椎は右に動きながら同時にCWの捻れをします。そして、環椎の下にある軸椎の棘突起は簡単に触れることができますが、それも環椎と同じように回旋します。ですから、瞳を右に向けたときには軸椎はCWに回旋しますが、棘突起が大きいので、左側に出っ張ったように受け取るかもしれません。
また、噛み方も環椎の状態に影響します。噛んでいる方、噛みしめている方に環椎は動きますので、いつも右側ばかりで噛んでいる人は環椎が右側に歪みます。そしてその歪みは軸椎に影響を与えます。その時の状況によって様々ですが、反動として軸椎が左側に歪むこともあります。
上部頚椎の、特に環椎は頭部との接点(環椎後頭関節)ですので、その在り方は全身のバランスに影響を及ぼします。
頚部まで含めた体幹の上に頭部が乗ってますので、その乗り方が歪んでいる状態は頭を傾けた状態と同じであると考えることができます。頭が傾いている状態では、口の使い方、噛み方、眼の使い方に偏りが生じます。そして、その傾いた状態が常態化しますと全身のバランスが狂ってしまうのは想像できると思います。
上部頚椎と骨格筋
環椎に影響を及ぼす主な骨格筋
- 小後頭下筋‥‥この筋自体がこわばっている場合もありますし、後頭骨が歪んでいることで変調を起こしていることもあります。
- 上頭斜筋‥‥目立たない存在ですが、環椎横突起と後頭骨を結んでいますので、上頭斜筋が変調して環椎が捻れを起こしている状況はしばしば見受けられます。
- 下頭斜筋‥‥軸椎棘突起と環椎横突起を繋いでいますので、環椎と軸椎が同方向に捻れているときに関係する筋肉です。
- 肩甲挙筋‥‥肩甲挙筋は大きく4つの線維群に分けられますが、環椎横突起から出ている線維は肩甲骨内側縁側に繋がっています。肩甲骨の状態と環椎の関係において大切な要素です。
- 頭長筋‥‥直に環椎には繋がっていませんが、環椎後頭関節に大きな影響力を持っています。
軸椎に影響を及ぼす主な骨格筋
- 大後頭直筋‥‥この筋自体がこわばっている場合もありますし、後頭骨が歪んでいることで変調を起こしていることもあります。
- 下頭斜筋‥‥この筋自体がこわばっている場合もありますし、後頭骨が歪んでいることで変調を起こしていることもあります。
- 肩甲挙筋‥‥軸椎横突起を起始としている筋線維群は肩甲骨への停止が環椎横突起を起始としている線維群のすぐ外側です。第3頚椎、第4頚椎も軸椎と同方向に歪んでいるのであれば肩甲骨の位置が悪いことが原因であると考えられます。
- 中斜角筋‥‥3つの斜角筋の中で軸椎に付着しているのは中斜角筋だけです。中斜角筋の変調は必ず軸椎に影響を及ぼしますので、繊細に確認する必要があります。
上部頚椎と他の頚椎
第3~第5頚椎
さらに第3~第4頚椎の前方には舌骨があります。舌骨は舌の運動の起点になる大切な骨格ですが、舌骨の下方には喉頭隆起があって発声や嚥下の運動を行っています。ですから第3、第4頚椎が歪んでいますと、舌骨の状態に影響し、舌の動きや嚥下や発声に問題が生じる可能性があります。
頚椎全体は軽い前弯状態になっていますが、その状態を支えているのは第3~第5頚椎です。何かの理由で第3~第5頚椎の柔軟性が失われたり、前弯が失われてストレートネック状態になりますと、首・肩が凝りやすいといった症状だけでなく、喉や舌の働きも悪くなります。
また、第4頚椎は耳の働きと密接な関係があります。中耳炎、難聴、耳管関係の症状などにおいては必ず第4頚椎を確認して整えることが必要です。
第3~第5頚椎と骨格筋
肩甲挙筋は眼精疲労や目の疲れなどと深い関係があります。パソコン画面、スマホ画面、テレビ画面、読書などのようにあまり眼球を動かすことなくじっと集中して目を使っていますと外眼筋がこわばると考えられますが、それはコメカミの膨らみや硬さとして表に現れます。
斜角筋の変調と頚椎の状態を考えるとき、肋骨に付着しているところと頚椎に付着しているところの角度は検討材料になります。
第6、第7頚椎と骨格筋
第6頚椎に対しては後斜角筋の影響力が強いので、必ず後斜角筋の状態との関係性を確認する必要があります。
頚部と頭部の神経
からだにはいくつかの神経叢があります。
頚椎と神経叢との関係では、腕神経叢が前斜角筋と中斜角筋の間を通って腕~手指先に通っていきますので、頚椎椎間板ヘルニアやその他の病変によって「手先がしびれる」など症状が現れる場合があります(胸郭出口症候群)。あるいは頚椎に関係する骨格筋が強くこわばって同様の症状を呈することもあります。
さらに、頚椎の横突孔には椎骨動脈が通っていますが、上部頚椎の歪みが大きかったり、頭長筋の変調なども含めて環椎後頭関節が歪んだ状態になっていますと、椎骨動脈(脳底動脈)の流れに問題が生じて脳神経の働きや小脳の働きに影響がでることも考えられます。実際、頭長筋のこわばりが強くで顔面神経の働きが悪くなり眼の閉じ方が甘くなったり(瞬目不全)、頬(表情筋)がたるんだり、と脳神経の働きに影響が及んでいる候を感じることもあります。
私たちの五感の中で皮膚感覚(触覚)以外の感覚はすべて頭部にあり、脳神経と密接に関係しています。ですから、頚椎の状態は私たちに「不快感」や「違和感」や「苦痛」をもたらす直接的原因になりますので、丁寧に粘り強く勉強して頚椎の歪みを調整できる技能を身につけてください。