歩行の動作において大切なポイントはいくつかあります。歩行時に太ももを上げ始め足を前にだす動作において足の内側(母趾側)を引き上げて前に出しているのか、あるいは足の外側(4趾・5趾中心)を引き上げているのかの違いは、効率良くからだを使うための重要なポイントとなります。
歩行時に足を前に出す動作は、同側の股関節において太ももを浮かせるようにして大腿骨を屈曲することから始まります。このとき太もも内側の筋肉(大腰筋)を作動させて股関節を屈曲し始めるのか、あるいは外側の筋肉(大腿筋膜張筋)を作動させて股関節を屈曲しはじめるのか、その違いはからだのバランスと歩行の効率に大きな違いをもたらします。
本来は大腰筋を作動させることで大腿骨を引き上げ始めるのが正しいと私は考えています。大腰筋は腰椎から始まる(起始)筋肉ですから、大腰筋が作動して股関節が屈曲するときには、骨盤も同時に動きます。ですから、歩く動作において下半身が大きく使えますし、脚も長く見えます。そして下肢の内側の筋肉にその動きは繋がっていきますので、母趾が引き上がりながら足を前に踏み出すようになります。
筋肉で説明しますとは大腰筋の収縮~長内転筋の収縮~前脛骨筋および短母趾伸筋の収縮へという一連の流れとなりますが、足首においては母趾側の骨(中足骨)が引き上がるようになります。そしてほぼ同時に短母趾伸筋の収縮によって母趾先が上に曲がる(背屈)ようになります。
たとえばスリッパで上手に歩くためには上がった母趾先を保つことでスリッパが母趾先に引っかかり、脱げなくなる状態が必要ですが、そのためには上記の一連の流れができていることが必要です。
一方、股関節を屈曲し始める時に大腿筋膜張筋を主体に使ってしまうような人の場合、骨盤はあまり動かず股関節が動作の支点となりますので、たとえ脚が長い人であったとしても「素敵な歩き方」には見えません。また大腿筋膜張筋およびその延長である腸脛靭帯は太もも外側部にありますので、足を前に出す動作において太ももの外側が収縮します。さらにふくらはぎにおいても外側の筋肉(長腓骨筋・第三腓骨筋など)が収縮しますので、常に脚の外側がこわばり、張っていると感じると思います。長時間歩くとふくらはぎの外側が痛くなるような人は、このような状態の人だと言えます。
スリッパがすぐ脱げてしまう人、飛んでいってしまう人、苦手な人はこのタイプの人であると考えることができます。
第3腓骨筋と長趾伸筋
さて今回のテーマの一つ第3腓骨筋についてですが、たとえば寝た状態や椅子に座った状態で足首を曲げて足先を持ち上げるようにしたとき(足の背屈)、足の外側(小趾側)の方が母趾側よりも強く収縮する場合、それは第3腓骨筋や長趾伸筋が優先して働いているということです。あるいは、母趾を持ち上げる前脛骨筋や長母趾伸筋の働きが悪いということです。
このような人の殆どは上記で説明した、股関節?脚の外側の筋肉を主体に使って歩いていると思われます。
外見で観察したとき、下の写真のように親指(母趾)がやや下方を向き4趾・5趾が浮いているような人は足の小趾側を主体に使って歩いている人になりますが、すると第3腓骨筋はこわばります。また、この写真の方は3・4・5趾につながる腱が浮きでいているのがはっきりと分かりますが、この腱は長趾伸筋の腱ですから長趾伸筋もこわばっていると判断することができます。
歩行動作の詳細に関して説明し始めますと細かいことがたくさん出てきますのでここでは省略しますが、第3腓骨筋を主体に使って足首を背屈し、長趾伸筋を使って足先を持ち上げる歩き方(=股関節の外側筋肉を主体に使っている)は基本的に間違っていると私は考えています。
「普通に歩けるから問題ない」という捉え方もありますが、「全身的な効率」という観点では必ず改善してほしい事柄だと私は考えています。からだのいろいろな症状の根本的な原因になるポイントの一つです。
第3腓骨筋がこわばったときの弊害
以下に記しますのは、私の施術者としての体験によるものです。ですから私にとっての真実ではありますが、現在の科学的な観点では根拠が不十分だと判断されるかもしれません。
①第3腓骨筋がこわばっている人は坐骨結節が下がっている
「お尻が垂れている」状態というものがありますが、その中の一つに坐骨結節が下方に引っ張られている状況があります。坐骨結節は骨盤の部位の名前ですから、理屈で言えば「骨盤が下方に引っ張られて下がっている」となりますが、私の感覚では(骨盤ではなく)坐骨結節が下がっていると表現した方がしっくりきます。
坐骨結節が下がりますと外見的にはお尻が縦方向に間延びしている感じに見えます。そして、外見だけでなく筋肉の働きに影響を及ぼします。
太ももの裏側にあります、いわゆるハムストリング(半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋長頭)は坐骨結節を筋肉の始まり(起始)としていますので、それらの筋肉がゆるんだ状態になって働きが悪くなります。
また、(私は隠れている重要なことだと思っていますが)大腿方形筋がこわばります。大腿方形筋は坐骨結節と大腿骨大転子を結んで大腿骨を外側に捻る働きをすると知られていますが、臨床的に隠れた重要なポイントがあります。
それは小殿筋と拮抗していることです。小殿筋は股関節の強力な内旋筋ですが、膝窩筋、母趾内転筋と連動関係にあることも重要なポイントです。(小殿筋の詳細は省略します)
第3腓骨筋がこわばりますと、坐骨結節が下がり大腿方形筋はこわばります。すると大腿骨大転子は後方に引っ張られながら外旋します。この状況は内旋筋であり、大転子を前方に引っ張る働きもしている小殿筋にとっては強いテンションが掛かった状況となります。すると小殿筋はこわばりますが、それが膝窩筋のこわばりを招きO脚になりやすくなります。(反対に言いますとO脚を修正する際には膝窩筋のこわばりを解消するために小殿筋と母趾内転筋は必ず整える必要があります。)
股関節にとって小殿筋の状態はとても重要です。そして小殿筋と連動する膝窩筋は膝関節の要であり、こわばるとふくらはぎ(脛骨)を外側にずらしながら内旋させるのでO脚をもたらす主原因ですが、するとさらに重心は小趾側に偏って歩くことになります。この状況は、さらに第3腓骨筋がこわばるという悪循環をもたらすことに繋がります。
②上後鋸筋がこわばって肩こりが常態化する
慢性的な強い肩こりを訴える人の多くは上後鋸筋がこわばっています。上後鋸筋は学術的な見解では薄い筋肉ということもあり、からだに対する影響力について多くは語られていません。しかし、筋肉はこわばると太く固くなりますので、強くこわばっている上後鋸筋は無視してやり過ごすことはできません。
私のような整体師や療法家などの間では上後鋸筋をゆるめて肩こりを改善する為にはトリガーポイントが重要視されているようですが、私はその理論についてはほとんど知識がありませんのでわかりません。
「もみほぐす」といった観点では、上後鋸筋は非常に手強い筋肉です。と言いますか、私の認識では強くこわばっている上後鋸筋はもみほぐす対象ではないと考えています。ですから、長年「どうやったらゆるめることができるだろうか?」と考え続けていた筋肉でした。
結論的に言いますと、第3腓骨筋のこわばりと上後鋸筋のこわばりは関連があります。ですから第3腓骨筋のこわばりを解消することは上後鋸筋のこわばりを改善してしつこい慢性的肩こりを解消するための方法の一つです。
その仕組みについてはよくわかりませんが、第3肋骨、第4肋骨が前方に出ている場合、上後鋸筋はこわばります。そして第3腓骨筋のこわばりを改善しますと前に突出していた肋骨が引っ込み、そして上後鋸筋が改善するといった繋がりがあるようです。
ちなみに、上後鋸筋のこわばりを改善するもう一つの方法は、手の母指につながる短母指伸筋のこわばりを解消することです。
ですから上後鋸筋がこわばっている場合、実際の施術において私は第3腓骨筋と短母指伸筋のこわばりを解消する施術を両方行っています。
上後鋸筋がこわばっている状態は慢性的な肩こりをもたらすだけでなく、第6頚椎を後下方に引っ張りますのでストレートネックの原因にもなりますし、後斜角筋をこわばりを招いてそれが咬筋(深部)に連動し、噛み締め状態をもたらす可能性があります。さらに胸郭上部の動きを制限しますので、呼吸にも影響をもたらします。
「上後鋸筋は薄い筋肉であるから」ということで軽く考えてしまうような筋肉ではないと私は考えます。実はからだに大きな影響力を持った筋肉です。その観点からも第3腓骨筋のこわばりは解消したいものだと考えています。
③後頭部が下がって、首と後頭部との境がスッキリしない
①で第3腓骨筋がこわばると坐骨結節が下がると記しましたが、同時に後頭部も下がります。後頭下筋がこわばって後頭骨を下方に引き下げるようになるのですが、それは第2頚椎他、頚椎を引き下げることによってもたらされます。それは半棘筋や多裂筋がこわばって起こる現象かもしれません。
いずれにせよ、後頭下筋群がこわばって後頭部を下げ、頚部との境が狭まった状況に不快感を感じたり、「後頭部が重い」「首との境が苦しい」などといった症状をもたらす可能性があります。第3腓骨筋のこわばりを解消することはこんな時の解決手段の一つとなります。
第3腓骨筋の変調を改善する方法
第3腓骨筋がこわばってしまう根本的な原因は立ち方、歩き方の問題に関係します。ですから大局的には歩き方が改善するように調整することが必要になりますが、実際問題として、歩き方は「長年の癖」のようなものですから、すみやかに改善することは難しいことです。
だからといってこわばっている第3腓骨筋を指圧したり揉みほぐしたりするだけの対処法だけでは、じきに元のこわばった状態に戻ってしまい、症状が再びやってきてしまいます。
私の施術では、第3腓骨が強くこわばっていて影響力が強いと感じた場合は、とりあえず持続指圧などでほぐします。第3腓骨筋を使いすぎたことによるこわばりはこれで解消することができます。
次に骨格的な歪みによって第3腓骨筋がこわばっていることもありますので、骨格的な歪みを修正しますが、これはワンパターンではありません。いろいろなケースがあります。ですからその時の「現場合わせ」的手段が必要になります。
外果(腓骨)が下がっている、あるいは後ろにある、(上の写真のように)短趾伸筋が弱いので長趾伸筋を必要以上に収縮させて歩くため、同時に第3腓骨筋がこわばってしまうケースもあるでしょう。あるいは、母趾側を引き上げる前脛骨筋や長母指伸筋、短母指伸筋などの働きが悪かったり、後脛骨筋がこわばっているなどの理由で母趾を上手く引き上げることができないために、小趾側を持ち上げないと足先があがらないという状況もあるでしょう。
ですから、細かく観察して操作しながら「どうすれば第3腓骨筋がこわばらない状態になるのか?」と試行錯誤を繰り返して答えを見つけるしかないのが現実かもしれません。
ただ、大まかに解っていることは、内側広筋~脛骨内側にかけての筋膜がこわばっている状態では、脛骨の内側が上に歪み外側が反動で下がるようになりますが、この状態では必ず第3腓骨筋はこわばります。ですから内側広筋の状態、脛骨筋膜の状態を確認して対応することは重要です。
小趾側筋肉を主体に使って歩いている人は、小趾側の足趾だけでは地面を蹴ることが出来ないので、足を捻らせて最後は母趾を捻りながら地面を蹴るようになります。ですから足裏全体も捻れた状態になっていますが、母趾先の内側(第1関節のところ)が非常に硬くこわばっています。そして、このこわばりが脛骨内側の筋膜~内側広筋に連動している場合も多々あります。経穴では「隠白」の付近になりますが、この強いこわばりを解消することも一つの手段です。
また、内側広筋がこわばる理由はその他にも幾つもありますのが、それらは施術経験を重ねることで対応できるようになるでしょう。理屈よりも現場合わせの要素が強い施術の類です。
さらに、足の内側の三角靭帯が硬く短縮していて舟状骨などが上方に引き上げられている状態の時なども小趾側のアーチは沈み第3腓骨筋はこわばった状態になっています。立位において土踏まずの内側(舟状骨のところ)に荷重が掛かるような状態で、舟状骨の底面、後脛骨筋の付着部あたりが伸びている場合は、このような状態になっていますが、その伸びてゆるんでいる部分を調整することで第3腓骨筋のこわばりが解消される場合もあります。
小趾側アーチをしっかりさせるためにも第3腓骨筋を整えよう
小趾側アーチが上がってしっかりしていると鼡径部も上がり喉や舌もあがります。鼡径部のじょうたいは下半身の血流にとって大切です。喉と舌の状態は嚥下やそしゃくにとって重要です。
下記のページをご覧になってください。
足の小趾側アーチと上昇する力 | ゆめとわのホームページ (yumetowa.com)
上記に説明しましたが、第3腓骨筋がこわばっていると何故か、小趾側アーチは沈んだ状態になってしまいます。(普通に考えると第3腓骨筋が短縮状態になると小趾中足骨が引き上げられるのでアーチの形成はしっかりすると予想できますが、実際はその反対です。)
第3腓骨筋は必ずチェックしたい筋肉
すでにいろいろ記したように、第3腓骨筋にまつわる症状やからだの状態は幾つもあります。そして、それらの症状などは、第3腓骨筋の変調を整えない限り解消されることはないようです。
上後鋸筋がこわばっていても、小趾側アーチが沈んで鼡径部が下がり舌や喉が下がっても、内臓下垂の状態になっても、それらは腰痛や膝痛や肩関節痛などいわゆる「整体が必要な症状」のイメージではありませんので、私たちには縁の薄いものだと思われるかもしれませんが、クライアントの快適さを追求するなら、第3腓骨筋はポイントとなる筋肉であると私は人S記しています。
小さく地味な筋肉は、からだを支え、他の大きな筋肉が快適に働けるようにする働きを担っていると私は考えています。