整体的施術はいろいろな方法がありますが、物質的な面では下記の二つに大別することができます。
- 骨格を操作することを主体にする手技、
- 筋肉・筋膜・靱帯など軟部組織を調整することを主体にする手技
カイロプラクティックは骨格を直接的に操作する手技になりますが、それ以外にもボキボキと骨格を動かして調整する手技があります。このような施術は骨格を整えることに主眼をおき、骨格が整うと自ずと全身が整うとの立場に立っていると思われます。
一方、一見、指圧やマッサージのように見える整体施術があります。軟部組織を調整することで骨格を含めた全身を整えようと考える手技です。
そして、このサイトで勉強するのは後者の方です。
類似しているように見える施術に頭蓋仙骨療法がありますが、それとは考え方が違います。
このサイトでは、筋肉、筋膜、靱帯など軟部組織を整えることによって骨格の歪みを正し、全身の筋骨格系を整えることに関してをまず勉強していただきたいと考えています。
なぜなら、これが基本であり、この基本が習得できた上で、次の段階として、いろいろなセラピーを修得されるようにした方が適切であると考えるからです。
あるいは、すでにセラピストを業となしている人は、整体的知識としてこのサイトの情報を活用していただければ幸いです。
以下に、軟部組織を調整することによって骨格を整える手段が基本であるとすることの説明をします。
最初は細胞だけだった
生物の進化を考えたとき、生命の始まりは細胞一つだけで生活している単細胞生物でした。
時の流れにしたがって単細胞生物が多細胞生物になり、やがて植物と動物に分かれるようになりました。
私たち人類は脊椎動物の中の哺乳動物に分類されますが、脊椎動物とは背骨のある動物のことで、その始まりは海の中の魚です。
今からおよそ5億年前、最初の脊椎動物が海の中で誕生したと考えられていますが、それは海鞘(ホヤ)のような袋状の動物だったとされています。
骨盤と頭はまだ分かれてはいません。口(入水孔)と尻(出水孔)は隣に近接していました。内臓器官はありましたが骨はありませんでした。
その後、海の中を漂っているうちに海水の流れによって尻と頭が少しずつ離れるようになり(頭進)、やがて尻(骨盤)と頭の間に背骨ができて、魚のような脊椎動物に進化していったと考えられています。
ですから脊椎動物のはじめには、骨はなく、軟部組織だけでからだが構成されていました。つまり、筋肉や筋膜が先であり、骨格は後から生じたという順番です。
この進化の順番に従えば、からだを整える上での順番も、筋肉、筋膜、靱帯など軟部組織を優先させるのが道理であると考えることが出来ます。
骨格と筋肉と靱帯の関係
実際のところ、筋肉と骨は互いに依存し合う関係にあります。筋肉はそれ自身が伸び縮みすることによって動作を生み出すわけですが、その足場であり、土台となるのは骨格です。
骨格が歪んでいたり、不安定であれば筋肉は自身の能力を十分に発揮することができなくなってしまいます。その意味で骨格の在り方は非常に重要です。
ところが、骨格もまた、その安定性や位置決めを筋肉および靱帯に依存しています。筋肉の働きが悪ければ、骨は安定した状態で本来の位置に居ることはできなくなります。靱帯の状態と働きが悪ければ、骨格を安定させることは難しくなります。つまり軟部組織の状態と骨格の歪みは密接に関係し合っています。
ですから、動作の不具合を調整する施術では、まず骨格の歪みを解消して骨格を安定させる働きを担っている筋肉と靱帯を整えます。そうすることで骨格がしっかりと安定した状態になります。
その上で、次に動作に関係する筋肉を整えます。そうすることで筋肉はその能力を十分に発揮できる状態になりますので、動作の不具合は効率よく改善されることになります。
この手順を間違えますと、いくら長時間施術を行ったところで問題の解決には至りません。
「動作を行う筋肉の働きが快適になるためには、付着している骨格の安定性が必要です。そして骨格の安定性は、関節付近にあります短い筋肉や靱帯の状態に依存しています。」
この大原則を常に頭に入れて施術を行うことが肝心です。
骨を直接動かす手技を考えたとき、骨格を安定させるための筋肉や靱帯の状態が芳しくなければ、一時的に骨格の歪みが整って良い状態になったとしても、やがて元の歪んだ状態に戻ってしまうと考えることができます。
そして、実際、その通りになります。元の状態に戻るまでの時間が1分なのか、1日なのか、1週間なのかの違いはあるかもしれませんが、合理的に考えますとそれが当然の結論です。
何故なら骨格を安定させる働きをしている筋肉や靱帯がおかしな状態になったので骨格が歪んだわけですから、それら筋肉や靱帯を整えることなく骨格だけ外力を使って矯正したとしても、それはやがて筋肉や靱帯の有り様の通りに戻ってしまうことになります。
指をポキポキ鳴らすことや肩関節をゴリゴリ回したりすることが癖になっている人がいます。そのような行為によって一時的に関節が整い、スッキリした状態になるのが気持ち良いと言います。しかし、何分か経つとまた同じように指をポキポキしたりします。
これが上記の典型的な具体例です。骨を操作して一時的にスッキリした気分になるかもしれませんが、やがて関節は歪んだ状態に戻りますので、また骨を操作したくなってしまうのです。
このような行為は、対症療法的に素人が行うには良いかもしれませんが、セラピストがプロとして行うには技量不足と言わざるを得ません。
ですから、しっかりとした観察と合理的な手順を踏んで施術を行う必要があります。
但し例外があります。それは、元々は骨格に歪みの無い状態だったものが、衝撃や何かのきっかけなどによって一時的に歪んでしまった場合などです。肩関節が脱臼したり、顎が外れたりした場合がこれにあてはまりますが、その場合は「筋肉や靱帯を整えているうちに、やがて元の状態に戻る」ということにはなりません。物理的外力を用いて関節を元の状態に戻すのが妥当です。
そしてこのような場合は、骨に付着している靱帯や筋肉など軟部組織の損傷を最小限に抑えなければなりませんが、そのためには軟部組織の正確な知識が必要です。