からだの中心と外側

 「整体観」という言葉が中医学にはあるようです。それはとても大きな観点での概念ですが、整体療法の入口段階では、そのような大きな観点ではなく、より実践的な観点で「整体」を考えた方が効率的だと思います。
 つまり、とりあえずは筋・骨格系の枠の中で学び、その知識を実際に実践に活かして体験を積むことから始めることが整体師やセラピストを目指す人にとっては大切だと考えます。

 整体療法は一般的な印象では、東洋医学に属する分野であると考えられています。そして東洋医学、つまり漢方や中医学においては「陰陽五行」「気・血・水」など宇宙レベルの哲学的概念の用語が頻繁に登場します。また経絡や経穴(ツボ)が登場しますが、そこから勉強を始めますと現代科学に馴染んでいる私たちの思考回路では理解が難しい概念にたくさん出会います。すると東洋医学や、そして整体療法が難しいもののように感じられるかもしれません。

 ですからこのサイトでは、勉強の最初の段階では、あえて東洋医学的な考え方はしません。現代科学の範囲内にある解剖生理学の用語を主に用いて、整体療法について説明していきます。
 そして、私たちのからだを観察する上で、大切な「見方」をいくつか最初に説明します。

からだを中心と外側の二つに分けて考える

 例えば大きな樹木を観察したとき、木の幹は中心であり、枝葉は外側になると見ることが出来ます。幹が隠れてしまうほど枝葉が豊かな木であったとしても、幹がしっかりしていなければ、その存在を安定して保つことができません。つまり、中心は全体を支える役割をしていて、支えがしっかりしているので枝葉が大きく育つことができると考えることができます。
 これを私たちのからだに当てはめて考えますと、木の幹に相当するのは体幹(骨盤から頭部)であり、枝葉に相当するのが四肢(腕~手と脚~足)になります。
 ですから、「手足を自由に力強く動かすためには体幹がしっかりしている必要がある」という理屈が成り立ちます。これが整体的にからだを考える上での第1の見方になります。

 もう一つの見方は「上肢においては母指側は外側であり、小指側は内側(中心)である。下肢においては母趾側は内側(中心)であり、小趾側は外側である。」というものです。

 この認識は臨床上、とても重要です。

 あらゆる動作に、例外なく通じる道理があります。それは「動くためには、その動作を支えるための”支え”がなくてはならい。」というものです。
 例えば、ペンを使って字を書くとします。スラスラとペン先を走らせて字を書くためには、実際にペンを持っている母指と示指と中指が思いのままに自由に動かせる状態が必要です。そして、そのためには、小指~小指球と環指を軽く握り締めるようにしてペンを持つ手を安定させる必要があります。
 つまり、「小指側が支えているので、母指と示指を自由に動かしてスラスラと字を書くことができる」という理屈になります。

 時々筆圧の高い人がいます。スラスラ字を書くことが苦手で、一字一字が、一筆一筆が力強くなってしまいますが、このような人は、小指側で動作を支えることができない状態です。母指や示指で動作を支えながら、さらに母指と示指を動かしていますので、「ペン先を走らせる」という状態は不可能です。

 もう一つの例です。運動会のリレー競争ではバトンを握りながら走ります。このバトンを小指側の筋肉を使って握ることのできる人は、握りが安定しますし、腕や肩に余計な力が入りませんから、腕を不安なく大きく振ることができます。ですから、走ることに集中できます。ところが小指側(小指球)ではなく母指と示指を主体に母指球に力を入れて握ってしまう人がいます。このような人はギュッと力を入れてバトンを握らないとバトンが手から離れてしまう不安を感じてしまいます。ですから余計な力が母指側(橈側)の筋肉に入ってしまいますが、そうしますと肩の筋肉が緊張します。腕を大きく振って走ることはできなくなりますので、速く走ることができなくなってしまいます。

 以上のように、上肢の筋肉は母指側(橈側)と小指側(尺側)ではそれぞれの役割分担があります。そして尺側(小指側)の筋肉が動作を支える役割をしていて、橈側(母指側)の筋肉が伸び伸び働いて物事を処理している状態が適切です。
 ペンを使うなら、母指と示指が自由に動けることが大切です。裁縫で針を使うときも同様です。包丁の使い方でも、力を入れて食材を力強く叩き切るような場合は、小指球を中心に腕を動かしますし、リンゴの皮むきなどのときには、小指側でしっかり支えて母指と示指を器用に使いながら作業を行います。

 このような大原則を逸脱している人はかなり多くいますが、そのような人達は、脇が空いた状態で作業を行い、肩と首と顔に力が入りやすい傾向があります。
 首・肩のコリに悩まされ、顔や顎に力が入ってしまいますので頭痛や顎関節症あるいは歯痛に悩まされているかもしれません。
 このような人に対しては、小指側が上手く使える状態になるよう施術で調整する必要があります。

 そして、下肢では上肢とは反対になります。下肢の内側、つまり母趾側が中心になる状態が適切です。立った時に自然と股関節の内側~膝の内側に力が集まる状態が正しい在り方です。そうであれば、歩行時など片脚立ちになった状況の時でもしっかりとからだを支えることができます。
 立った時に母趾側ではなく小趾側に重心が逃げてしまう人は、O脚になりやすいのですが、からだの力も分散してしまいますので、しっかり体幹を支えることができなくなってしまいます。ですから、立っているだけなのに、あるいは座っているだけなのに、姿勢を支えるために背中や胸や首・肩に余計な力が入ってしまう状態になってしまいます。「リラックスする」ことは難しく、常に緊張状態になってしまいますので、自律神経も交感神経優位の状態になってしまう可能性があります。

 セラピストとして、からだを観察するときにまず確認することの一つとして、その人が小指側~母趾側を中心にからだを使っている人か、反対に外側(母指側~小趾側)の筋肉を主体にしてからだを使って

タイトルとURLをコピーしました