筋肉のリラックス状態と骨格の関係

 「からだを楽にして快適な状態にする」というのが私たちの仕事の目的の一つです。

 私たちに与えられた業務範囲内で、この目的を達成するための具体的な作業は、骨格筋の変調状態を改善して緊張状態を取り除くことが主になります。
 その他にも呼吸状態を改善すること、神経的な不調やアンバランスを調整することなど、私たちができることもありますが、今回は骨格筋の緊張状態を効果的に緩和するための考え方について説明します。
 
 骨格筋の変調を改善する方法には、揉みほぐす、エネルギーの流れを良くする、温める、こわばりをストレッチする、等々いくつかのやり方がありますが、今回は骨格を整えると周辺筋肉の緊張状態が一気に緩和する現象が起こることについての説明です。

骨格が整うと筋肉がリラックスする

 上図は骨格と筋肉との関係を模したイメージ図です。
 私たちの骨格は小さい関節まで含めて、骨と骨は靱帯と筋肉で繋がれています。そして、ある骨は関節している隣り合う骨に支えられているという関係が成り立っています。
 上図で言えば、A骨は土台となってB骨に支えられている関係になっています。そしてB骨にA骨がしっかり支えられていて、自身をすっかりB骨に委ねていられる状態になっている時(最も右図)、骨格筋に例えられるロープは力を抜いていることができます。つまり、緊張状態が解け、省エネ状態で休んでいることができます。
 この原理(仕組み)は私たちにの仕事にとってとっても重要です。限られた施術時間の中で、より多くの筋肉の緊張状態を解消してリラックス状態に持っていくためには「骨格が整うと、筋肉の緊張状態が一気に緩和する」
という仕組みを利用する必要があるからです。

膝関節の例

 さて、膝関節を例えに話しを進めていきます。
 膝関節は大腿骨と脛骨(+腓骨)の関節ですから、大腿骨と脛骨をつないでいる靱帯と筋肉がいくつもあって膝関節を機能させています。
 一関節筋として、内側広筋、中間広筋、外側広筋、大腿二頭筋短頭、膝窩筋があります。
 二関節筋として、大腿直筋、縫工筋、大腿二頭筋長頭、腓腹筋があります。
 靱帯では、十字靱帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯があります。

 ここで、膝関節が上図の真ん中の図のように、大腿骨(A)と脛骨(B)の関係に歪みが生じますと、一関節筋は不安定な膝関節を支えなければならないので緊張状態になります。さらに二関節筋にも影響が及びます。靱帯にも負荷が掛かりますので、靱帯もより頑張らなければならないために緊張状態になります。
 ところが、上図の右側の図のように、大腿骨と脛骨がまるで一つの骨のようにしっかり繋がったとしますと、靱帯も一関節筋も膝関節を支えるという意味では力を抜いてリラックスすることができるようになります。(この状態をイメージできるでしょうか?)

膝関節のロックは大切

 膝を曲げた状態からゆっくりと伸ばしていきますと、膝が伸びきる直前に脛骨が少し外旋します。そして膝関節がしっかり噛み合った感じでロックされた状態になります。
 膝関節を伸ばしきることができなかったり、最終段階での脛骨の外旋ができないと膝関節にはロックがかかりませんが、この状況は膝関節が不安定な状況です。

 また、椅子に座った状態などから立ち上がる動作においては、膝が真っ直ぐになる直前に大腿骨が少し内旋します。(=相対的に脛骨が外旋)
 そしてこの動作によって膝関節にロックがかかり、大腿骨と脛骨が一体化した感じになります。すると、大腿や下腿の筋肉からは瞬時にフッと力が抜け、緊張状態が緩和された状態になります。

 膝関節のロックにより大腿骨と脛骨が一体化しますので、下肢全体としては安定感が増して強靱になるのですが、関係する骨格筋からは力を抜くことができるという効用がもたらされます。
 これがすなわち、「骨格が整うと筋肉が緊張状態から解放される」仕組みであり、それがもっとも感じやすい部位が膝関節かもしれません。

 誰かと長い立ち話をするとき、片脚を放り出して、もう片方の脚でピンと立つ「休めの姿勢」になる人が多いと思いますが、それは軸脚の膝関節をロックした状態にすることによって、両脚の筋肉の負担が軽減される状態を無意識につくっているということだと思われます。

「乗っかる」という感覚

 上記では膝関節を例に、「骨と骨の関係がしっかりすると、筋肉の緊張は緩和し、自ずと力を抜くことができる」という説明をしました。
 そして、このような理想的な状態になりますと「乗っかる」という感覚が生じます。

 例えば椅子に座ったとき、上半身が「骨盤に乗っかって委ねる」ことができれば、背筋を伸ばして姿勢を正さなければならないという意識は生じません。自ずと、背筋は伸びます。

 「骨盤に上半身が乗っていますか?」という感覚的な質問をしてみます。
 「はい(YES)」という応えが返ってくれば良い状態です。考えこむような仕草をしたり、感覚がわからないような反応ですと、それはまだ不十分な状態であると判断できます。

ポイントとなる部位

 「乗っかる」という感覚を持たせたい部位がいくつかあります。

  1. 足関節‥‥距骨にからだは乗っていますか?
  2. 膝関節‥‥脛骨にからだは乗っていますか?
  3. 股関節及び恥骨(鼡径部含む)‥‥上半身は乗っていますか?
  4. 骨盤‥‥仙骨に背骨(腰椎)は乗っていますか?
  5. 第一胸椎‥‥第7頸椎(頸)は乗っていますか?
  6. 環椎後頭関節‥‥頭蓋骨は頚椎(環椎)に乗っていますか?

 以上6つのポイントで、本人の自覚として下の骨に上の骨格がしっかり乗っているように感じるのであれば、それは骨格が整っていると判断することができます。
 ですから、なるべく多くのポイントで「乗っかっている」という反応が得られるよう調整するようにします。
 一つのポイントを調整するだけで、他のポイントが全部揃ってしまう、という場合もあります。あるいは、一つか二つのポイントだけはなかなか整わないという場合もあります。
 そのような体験を繰り返しながら、自分の考え方を整理し、知恵を深め、そして技術力向上を目指すようにしてください。
 論理的な、合理的な施術を行うためには、このような観点で骨格を捉え、筋肉の変調との関係を追求していくことは必要不可欠なことです。

骨格と筋肉変調の関係

 上記では、「骨格が整うと筋肉がリラックスしてからだが快適になる」という観点で説明をしてきました。
 ところが、その骨格を乱すほとんどの理由は筋肉の変調です。
 筋肉の変調によって骨格が歪み、それによって新たな筋肉の変調が生じているというパターンがほとんどの実態です。
 その仕組みについて説明するイメージが下の二つの図です。

①骨がずれることによる筋肉の変調

 土台の役割をしている骨(B)にAの骨がしっかり正しく乗っている状態では、二つの骨を繋いでいる筋肉は緊張する必要がありませんので、自ずとリラックスした状態になります。
 しかし、何かの理由でAの骨がずれて傾いたとき、片側(左)の筋肉はたるんだ状態になります。そして反対側(右)の筋肉は引っ張られた状況になりますので緊張状態になります。それまで二つの筋肉でAを支えている状態だったものが、右側の筋肉だけで支えなければならないし、さらに引っ張られる荷重もかかりますので、それに対抗するために、筋肉は自ずと収縮状態となってこわばります。
 筋肉の長さは伸びているにもかかわらず、筋線維は収縮状態になるという現象が起こります。

②筋肉の変調による骨格の歪みと、それによる新たな変調

 ①はA骨とB骨の関係が正しく骨格に歪みのない状態です。何かの理由で左側の筋肉がこわばって短縮しますと③のようになりますが、すると右側の筋肉も緊張状態となってこわばります。
 また、④は右側の筋肉が何かの理由でゆるみ過ぎの状態となって弛緩伸張した状態ですが、この場合も骨格は③と同じように歪みます(Aが左側に傾く)。その結果左側の筋肉は弛んだ状態になり、ゆるみ過ぎの状態になります。
 骨格の歪み方は同じようになりますが、歪みをもたらしている筋肉の変調が違うことによって、骨格の歪みの影響を受ける筋肉の変調も異なります(③の右側はこわばり状態になる、④の左側はゆるみ過ぎ状態になる)。
 また、骨格の歪みを修正する方法も③と④では異なります。③の場合は左側の筋肉のこわばりを解消すること、④は右側の筋肉のゆるみ過ぎ状態を改善することが、骨格の歪みを改善して①の状態に戻すための方法です。


 繰り返しになりますが、私たちの仕事内容の多くは緊張状態にある筋肉をリッラクス状態にすることです。その時に緊張状態にある筋肉を一つ一つゆめようと揉みほぐしたり、指圧したり、マッサージしたりしても効率が良いとは言えませんし、まったく無意味になってしまうことも多々あります。
 ですから今回勉強している「骨格が整うと、筋肉の緊張状態が一気に緩和する」という原理をしっかりと覚え、そのことが実践できるよう練習を積み重ねることは技術力向上のためにも役立ちますし、顧客に満足してもらうためにも重要です。

皮膚への軽擦とマッサージの効用

 このサイトで学ぶ整体療法は筋肉と骨格に主眼をおいています。ですから、揉みほぐしとかマッサージ系についてはほとんど取り上げることがありません。
 しかしながら、私たちの肉体は受精卵から成長する過程で外胚葉、中胚葉、内胚葉に分かれ、それぞれが発展したモノの組み合わせでできています。
 外胚葉は脳や神経系に発展しました。中胚葉は筋肉と骨格に発展しました。内胚葉は消化管や呼吸器など内臓器官に発展しました。そして皮膚の表面である表皮は脳や神経系と同じ外胚葉系です。
 ですから、皮膚を優しく擦ったり、圧の弱いオイルマッサージなどで表皮を刺激することは直接、脳・神経系を刺激していることになります。

 また、これ以外の理由でも、皮膚を適度に刺激したり優しく労ることは、心情にも作用してストレス解消につながるなどの効果が認められると立証されているようです。
 ですから、皮膚への軽擦施術やマッサージも骨格筋にリラックス状態をもたらす効果があることをつけ加えます。

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