筋肉の性質 筋長と収縮点と変調

 このサイトで勉強する整体療法では、最低限会得しなればならない技術が2つあります。
 1つは筋肉(筋膜含む)の変調を捉える感覚であり、もう一つは骨格の歪みを捉える感覚です。
 以上の2つが体得できなければ、このサイトで今後説明する内容を本当の意味で理解することはできません。
 その意味で私たちは“職人”であり、理屈や理論を頭でたくさん覚えたとしても、実際に現実化することができなければ、何の役にも立たないことになってしまいます。

 そして実際、この2つの技術を体得することに多くの人たちが苦労します。途中で挫折してしまう人もたくさんいます。
 ところが、この2つの技術を体得してしまえば、私たちの行う施術は合理的で論理的なものになります。理屈に則って検査をすすめ、そして論理的に施術を展開することが可能になります。
 「なんとなく、こんな感じで‥‥」とか、「こうなるはずだから」とか、「こう習ったので‥‥」といった曖昧で不確実な施術を行うことはなくなります。
 「○○ができないのは自分の技術力が足りないからだ」と素直に認めることができまし、「次に同じような問題に遭遇したときには違うアプローチでうまくいくか試してみよう」などと、自分の能力を向上させる方向に思考を向けていくことができるようになります。

 ですから、これから説明する内容を克服するためには訓練とかなりの試行錯誤が必要になるかもしれませんが、頑張ってクリアして、体得していただきたいと思います。
 なお、どうしても難しいと感じるようでしたら、この2つの技術だけを実技指導することもできますので、お問い合わせください。

 そして、今回は筋肉の性質と変調について説明します。

筋肉の特徴‥‥筋長と収縮点の発生

 例えば、上腕二頭筋の収縮を観察するために肘関節を屈曲動作を行ったとします。
 最初肘が伸びた状態から肘を曲げ始める段階では、上腕二頭筋の停止近く、つまり肘関節付近に硬くなった収縮ポイント(力こぶ)が生まれます。
 そして肘を深く曲げていきますと、その力こぶは次第に肩関節の方に移動していきます。
 やがて精一杯深く曲げた状態では、力こぶは肩関節付近の上腕二頭筋の起始まで迫ってきますが、さらに力を入れますと、力こぶは起始部で硬い状態になります。筋力トレーニングなどをしている人達の力こぶはとても立派で硬いものとなります。

 “力こぶ”は筋肉の中で“筋線維が収縮した部分(=収縮点)”を示していますが、この収縮点が発生する場所が変わることが筋肉の大きな特徴です。そして収縮点の移動(場所)と筋肉の長さ(筋長)に関連性があることも大切なポイントです。

 ところで、筋肉は上記のように収縮する過程においては、筋長が短くなるに従って収縮点の発生がが起始方向に移動する仕組みになっています。また、弛緩伸張する過程では、筋長が伸びるに従って収縮点の発生が停止方向に移動する仕組みになっています。

 この収縮点の発生点が移動するという仕組みは、あらゆる動作において適用されます。ですから、何かの「動作ができない」という症状があった場合、その動作において筋長が変化しているのにも関わらず、その「適切な場所に収縮点を発生させることができない状態になっている」と考えることができます。

 例えば上の写真において中央の角度になったときだけ腰痛を感じるのであれば、背中の真ん中辺りの脊柱起立筋が疲弊するなど変調を起こしていて、収縮できない状態になっている可能性が考えられます。ですから、この腰痛にたいしては、筋肉をほぐして痛みを和らげようとするのではなく、背中の中央部の筋肉が収縮できる状態になるように整えることが根本的な解決法になります。

筋肉(筋膜)の変調

 筋肉はその筋長によって収縮点の発生場所が変わりますので、本来収縮点が生じる場所に収縮点を形成することができませんと、その状態(筋長)を支えて保持することができなくなります。
 そして、収縮点を形成することができない状況を「筋肉が変調している」と言うことができます。

 筋肉の変調には2つのタイプがあります。
 1つは上記のように収縮点を形成できない変調で、筋肉が損傷していたり疲弊してる状況が連想できます。そしてこの変調状態を「ゆるみ過ぎ」と呼んでいます。
 もう一つは、「ゆるみ過ぎ」の変調とは反対で、弛緩伸張することができない状態です。常に収縮した状態になっていて、その部分は伸びることができない状況ですが、この変調状態を「こわばり」と呼んでいます。

 筋の変調(筋膜も同じような様相を呈します)

  1. 「こわばり」‥‥収縮しっぱなしの状態で伸びることができない。筋肉の使い過ぎや力の入れ過ぎなどによって、筋肉はしばしばこの変調状態になります。
  2. 「ゆるみ過ぎ」‥‥筋肉にできてしまった収縮することができない部分。損傷、打撲などケガによって筋線維が収縮できなくなってしまった部分。あるいは、使いすぎて疲労が溜まり過ぎ、疲弊した状態になって筋線維が収縮できなくなってしまうこともあります。

 そして、このような変調状態は筋肉の一部に生じることがほとんどですが、筋肉全体として変調状態になることもしばしば起こります。
 また、筋膜は自ら収縮する性質ではありませんが、筋肉と同じようにこわばって伸びにくくなったり、ゆるみ過ぎて筋膜としての働きが不十分になることもあります。

収縮と弛緩伸張の方向性

 筋・筋膜の変調を検査するとき、とても大切な大原則があります。
 これは生命体(動物)の発生と進化に関係することですが、私たちの筋肉には収縮すると骨盤に向かう性質があります。
 原初の脊椎動物は海鞘(ホヤ)のように、袋状のからだに口が開いていて、そこから食物を取り入れ、排泄物も同じ口から出していたと考えられています。この状態を平たく表現しますと、からだの中心(=骨盤)があって、そこに頭(口)と尻(肛門と尿道)が隣り合っていた状態でした。
 ところが海の中を長い年月漂っている間に、海流などの影響もあって、さらに頭になる部分は餌を早く摂り入れたいという欲求があってか、次第に骨盤から離れて前の方に伸びていきました。
 このようにして細長くなった原初の脊椎動物は、頭が前に進むのを骨盤や尻が追随するようにして海中を游ぐようになったのではないかと考えられています。そして骨盤から頭部が離れていき、からだが細長くなった現象を解剖学者の三木成夫先生は「頭進」と呼んでいますが、この現象はすべての脊椎動物の構造を考える上で、もっとも基本になることではないかと私は考えています。

 つまり、私たちのからだは骨盤が起点になって筋肉と骨格が拡がっていき発展したものであるということになります。ですから、筋肉が伸びる方向は骨盤から離れて末梢に向かう方向であり、筋肉が縮む方向は骨盤に戻る方向となっているのです。

 魚には背骨がありますので、それは脊椎動物ですが、今から4億年ほど前に魚は陸に上がったと考えられています。(脊椎動物の上陸)
 陸に上がった魚は海中の6倍になる重力に耐えなければなりませんでしたし、それまでエラ呼吸だった仕組みを肺呼吸に変えなければなりませんでした。ですから、長い間とても苦労したようです。
 魚類はやがて両生類に進化を遂げますが、そのときにヒレは四肢に変化を遂げたと考えられています。
 ところで、私たちのからだの四肢には上肢と下肢があります。上肢は腕と手のことですし、下肢は脚と足のことです。からだの構造を観察しますと、体幹に上肢をつなげる働きをしている骨格に肩甲骨と鎖骨がありますが、これらを上肢帯と呼んでいます。また、体幹に下肢を繋いでいる骨格として寛骨(腸骨+坐骨+恥骨)がありますが、下支帯と呼んでいます。寛骨は骨盤から体幹の骨である仙骨と尾骨を除いたモノですので、ひらたく「骨盤は下支帯」と呼ぶこともあります。
 そして上肢帯は筋肉の繋がりとして、僧帽筋、肩甲挙筋によって「頭部と頚部からぶら下がったモノ」であると考えることができます。ですから、上肢と上肢帯の筋肉は収縮すると頭部および体幹(頭部も体幹ですが)に向かうようになります。下肢と下支帯の筋肉は収縮すると骨盤あるいは仙骨・尾骨に向かうようになります。
 ですから、以下のように言うことができます。(例外はありますが)

 体幹の骨格筋は収縮すると仙骨(骨盤)に向かい、
 四肢の骨格筋は収縮すると体幹(および頭部)に向かう。

 今、皆さんはきっとこのことを頭では理解できたと思います。ところが実際にからだを触りながら骨格筋の変調を調べているときには、その方向がどっちだったかが解らなくなってしまうことがあると思います。その時には、体幹の骨格筋と四肢の骨格筋の向かう方向のことを思い出してください。

 例)頚部の筋肉には胸鎖乳突筋、斜角筋、肩甲挙筋、僧帽筋などがあります。斜角筋と肩甲挙筋は同じ頚椎に付着していますが収縮する方向が反対です。胸鎖乳突筋と斜角筋は体幹の筋肉ですから、収縮すると骨盤方向、つまり下方に向かいます。一方、僧帽筋と肩甲挙筋は上肢帯の筋肉ですから収縮すると体幹(頭部と頚部)に向かいますので、上方に向かうことになります。
 同じ頚椎を共用している斜角筋と肩甲挙筋は、収縮する方向が反対になりますが、思考が混乱する可能性がありますので、上記の原則をしっかり覚えてください。

変調と被包筋膜‥‥変調の確認方法

 骨格筋は必ず筋膜に包まれていますが、筋肉(筋線維)を包んでいる筋膜を被包筋膜と呼びます。
 そして、筋肉が変調状態だったり、筋肉に変調部分がありますと、被包筋膜が特徴的に変化をします。
 筋肉が骨盤方向に向かっている状態を「こわばり」の変調としていますが、これは被包筋膜の滑り方を検査することで確認することができます。

 たとえば上の写真のように肘関節を90°くらいに屈曲しますと、上腕二頭筋の中央部に力こぶ(収縮ポイント)ができます。このとき力こぶの起始側の被包筋膜に手指をあてて、被包筋膜を起始方向に引っ張りますと、筋膜はズリッと滑ります。
 そして、この起始方向に被包筋膜が滑る状態のとき、筋肉は収縮状態にあるわけですが、動作をしているわけでもないのに、また、意図的に力を入れているわけでもないのに、被包筋膜が同じように起始方向に滑ってしまう状態を「筋肉がこわばっている」と判断します。
 そして、同じ場所に手指を当てて、反対方向(末梢方向)に被包筋膜を引っ張ろうとしますと、ちょっとは動きますが、そこでブレーキが掛かってしまい、引っ掛かったようになって滑らなくなります。これが筋肉がこわばっているときの特徴的な性質です。
 「体幹に向かって被包筋膜は滑るが、末梢方向へは滑らずブレーキが掛かってしまう」というのが四肢の筋肉がこわばっているときの状態です。

 また、この肘関節を90°に屈曲した状態で、伸筋側の上腕三頭筋を確認してみます。
 上腕二頭筋の力こぶ(収縮点)の起始側で、被包筋膜を検査した場所のちょうど真裏当たりの上腕三頭筋の被包筋膜の滑り方を確認します。すると、上腕二頭筋とは反対に、末梢方向には被包筋膜は滑りますが、体幹方向には引っ掛かってブレーキが掛かってしまいます。筋肉が弛緩伸張している状態の時は、筋肉は末梢の方へ向かいますので被包筋膜も末梢方向に滑るようになります。
 動作をしているわけでもないのに、あるいは力を入れてるわけでもないのに、被包筋膜が末梢方向に滑ってしまう状況は筋肉が弛緩状態にあるわけですが、この状況を「筋肉がゆるみ過ぎの変調状態にある」と判断します。

 筋肉の変調を観察する手段の方法を文章で紹介しますと以上のようになりますが、この整体療法を学ぶ入口部分で、もっとも難関なのが、この観察技術を体得することです。
 この技術を身につけて経験を積みますと、一々被包筋膜を引っ張って確認しなくても、筋肉を触るだけで瞬時に変調を捉えることができるようになりますが、そのためにはまず、訓練、訓練、また訓練が必要です。
 どうぞ頑張って乗り切っていただきたいと思います。

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