肩甲舌骨筋の変調と症状

 肩甲舌骨筋は起始が肩甲骨で停止が舌骨となっています。しかし、滑動性は反対になりますので注意が必要です。(収縮すると滑動性が舌骨方向に向かう)

 肩甲舌骨筋の作用は収縮することで舌骨を後下方に引っ張るとなっていますので、嚥下や発声など喉元の動きに関与している筋肉であると言えます。

筋肉の変調による症状

 一方、実際の臨床現場では、肩甲舌骨筋の変調によって以下の症状が見られます。
・首を左右にスライドさせることに不調や不具合が生じる
 何かを覗き込むような動作をする場合、首をスライドさせますが、そのようなときに痛みを感じたり音がしたりする場合、肩甲舌骨筋がゆるんでいることが考えられます。筋肉を上手く収縮することができないために喉(舌骨)と肩甲骨を近づけることができない、という症状です。

・肩甲骨の位置が悪くなることによる症状が現れる
 肩甲舌骨筋がこわばっている場合、舌骨を肩甲骨の方に引き寄せる事も考えられますが、反対に肩甲骨を舌骨の方に引き寄せることも考えられます。つまり、肩甲骨が前上方に歪んでしまうことです。
 このような場合は、肩甲舌骨筋の起始部、それは肩上の中程ですが、そこが盛り上がっていたり、硬い硬結状態になっています。肩こりを揉みほぐすようにしてみたところで、その盛り上がりや硬結は一向に改善しません。肩甲舌骨筋のこわばりを解消することを考えなければなりません。
 また、反対に肩甲舌骨筋がゆるんでいる場合、肩甲骨は後方にずれます、つまり後傾状態になりますが加えて外側にも歪みます。それによって肩甲挙筋や上部僧帽筋はこわばりますので、いわゆる”肩こり”状態となります。この場合も、肩こりを揉みほぐすような施術をしてみたところで解決にはたどり着きません。肩甲舌骨筋の変調を解消することを考える必要があります。

・下顎が前に出る
 あまり見られないケースですが、肩甲舌骨筋が伸びてしまった状態になっているために、舌骨が前上方に歪んでしまい、それによってオトガイ舌骨筋、顎舌骨筋もゆるんだ状態になってしまい下顎が前方に大きく出てしまう状況になることがあります。
 この場合の特徴は、通常はちゃんと下顎は所定の位置に納まっているのですが、食事をしたり会話をしたりして舌骨(及び顎)を動かしていると、やがて下顎が所定の位置に戻せなくなって、すっかり反対咬合の状態になってしまうことです。
 肩甲舌骨筋が舌骨を後下方に引き寄せる力が弱いために顎二腹筋や頚突舌骨筋など舌骨の動きに関係する他の筋肉に大きな負担が掛かるようになりますが、やがてそれらの筋肉も疲労して収縮力が乏しくなってしまいます。ですから食事や会話の時間経過とともに舌骨を所定の位置に戻すことができないなってしまい結果として下顎が前に出っぱなしの状況になってしまうのです。食事や会話の後、しばらくじっとして筋肉を休憩させていると顎二腹筋や頚突舌骨筋の働きが回復しますので、舌骨の位置も所定の位置にもどり、合わせるように下顎の納まりも回復するようになります。
 私は過去に一人だけしかこのような症例は施術経験していませんが、なかなか厄介でした。その人は首や肩に力を入れて、いろいろな動作をする癖を持っていました。つまり肩甲挙筋や上部僧帽筋がいつもこわばっていたのですが、つまり、舌骨と肩甲骨の位置関係が近かったので、肩甲舌骨筋が余った状態になっていてゆるみ、収縮力を失っていました。

肩甲舌骨筋の変調を改善するために

 だいぶ以前に、歌い手さんなど普通の人以上に喉をたくさん使う人の場合、肩(肩上)の真ん中辺り(つまり肩甲舌骨筋の起始)が盛り上がり、その状態が悪化すると発声にも影響が及ぶという情報に接しました。ですから、喉を酷使するような人の場合は、肩甲舌骨筋はこわばるのだと思います。
 このような場合は、喉元や肩甲舌骨筋を直にストレッチやマッサージするなどして対処するのが良いと思います。すぐに肩をすぼめてしまう癖を持っている人も、起始部が硬くこわばっているようでしたら、指圧やストレッチなどで対処するのが良いと思います。

 しかし、多くの場合は舌骨の位置の歪みが影響して肩甲舌骨筋が変調していると思われます。
 たとえば、殆どの人がこの2年あまりマスクをして生活しています。マスクにはいろいろ弊害がありますが、整体的に見て私はマスクのゴム(紐)が耳を前下方に引っ張っている事が気になっています。それによって頬や口元の筋肉はたるみますので、きっと多くの人が下ぶくれのような顔になっているのではないかと思われます。そして、耳と頭の境辺りの筋膜はゆるんだ状態になっていますが、それは噛みしめ癖、噛み合わせの不具合などをもたらします。
 肩甲舌骨筋と関係する筋肉では、頚突舌骨筋がこわばりやすくなっていますが、それによって舌骨は後方に引っ張られます。つまり、喉が後ろにゆがんで詰まり気味の状態です。すると肩甲舌骨筋はゆるんだ状態になってしまいます。肩甲骨の位置が悪くなりますが、それによって肩関節に不具合が生じたり、酷い場合には五十肩のような状態になってしまうこともあります。

 つまり多くの場合、舌骨の位置が肩甲舌骨筋の変調に関係しますので、舌骨の状態は正しく戻すことが解決方法となります。
 肩甲舌骨筋が硬くこわばってしぶとい肩上部の肩こり状態になっていたとしても舌骨の状態を改善することで速やかに肩こりは消えてしまうことになりますし、五十肩のような状態であったとしても、速やかに改善します。

 また、横からの衝突によるムチウチなどで首が横方向にダメージを受けた場合、肩甲舌骨筋に損傷が生じる場合があります。肩甲舌骨筋は地味な筋肉ですから、普段はあまり気になりませんが、冒頭に申した症状、首をスライドさせることが苦手な場合など、筋肉の損傷による可能性もありますが、その場合は適切に対処して損傷を回復させなければなりません。 

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