下部僧帽筋のこわばりによる症状と対策

首~肩後部の張り、出っ尻出っ腹、反り腰、尾骨の突出など

 私たちの背中には僧帽筋という大きな筋肉があります。僧帽筋は背骨(後頭骨と頚椎と胸椎)に深く関係する筋肉であり、骨格としては肩甲骨の在り方にとても強い影響を与える筋肉です。

 私たち専門家は僧帽筋を上部線維、中部線維、下部線維の3つに分けて考え対処していますが、今回は下部線維についての話題です。

僧帽筋の図

 僧帽筋下部線維(以下、下部僧帽筋と表現します)は肩甲骨を下方に下げることと腕を上げる動作などで肩甲骨を上方回旋することが主な働きであると説明されています。
 ですから、下部僧帽筋の働きが悪くなり収縮力が乏しくなりますと肩(肩甲骨)は上方に歪み、「左右で肩の高さが違う」原因の一つになります。また、腕を上げる動作が重く感じるようになります。
 一方、下部僧帽筋がこわばってしまい常に収縮している状態になりますと、肩甲骨は下がりますし、体感としては肩甲骨が後下方に引っ張られているように感じると思います。立っていても何となく後ろから引っ張られているような、歩いていても進みが悪いようなそんな感じになるかもしれません。

 さて、今回は下部僧帽筋がこわばっているときのからだの状態と症状、そして対策について私の見解を説明させていただきます。
 下部僧帽筋がこわばる理由は大きく分けて2つあります。
 1つは下部僧帽筋の使いすぎでこわばってしまった場合、あるいは下部僧帽筋と連動関係にある別の筋肉が何らかの理由でこわばり、その連動性の仕組みによってこわばっている場合です。
 もう1つは骨格の歪みによって下部僧帽筋がこわばっている場合です。下部僧帽筋は第4胸椎~第12胸椎の棘突起に付着(起始)していますので、それらの胸椎の棘突起が下向き(椎体は上向き)になったり胸椎が下方にずれているときなどに下部僧帽筋はこわばります。(起始と停止の距離が離れるので)
 つまり、臨床的に簡略して説明しますと、胸椎(特に第12胸椎)の棘突起が上向きの状態で下部僧帽筋がこわばっているときは筋肉の方に原因がありますので、施術では下部僧帽筋を中心に連動関係にある筋肉を整えることになります。そして、胸椎の棘突起が下向きになっていて下部僧帽筋がこわばっているときには、原因が骨格の歪みによるものなので、脊椎を整えることを考えて施術を行います。(その他、棘突起が捻れている場合などもありますが説明は省略します)

 今回、主に説明したいのは筋肉の変調が原因で下部僧帽筋がこわばっているときのからだの状態とそれに対する施術についてです。
 下部僧帽筋がこわばっているときたくさん見受けられるのが、仙骨と尾骨が突出したり上方に歪んでいる状態です。骨盤は仙骨・尾骨を中心にその両側に寛骨が組み合わさってできていますが、骨盤全体として前傾しているわけではなく、仙骨と尾骨だけが上方に引っ張られているのですが、この状態では腰椎の動きに影響が及びます。
 本来、腰椎は前弯しているのですが、その在り方のポイントは第3腰椎~第5腰椎のところです。第5腰椎は椎体がやや下向きの状態であり、第4胸椎はほとんど正面を向いており、第3腰椎の椎体は少し上を向いています。つまり、第3腰椎~第5腰椎のところで前弯のくびれが形成されているのが本来の在り方です。
 ところが仙骨・尾骨が上方から引っ張られた状況では、第5腰椎の在り方が変わってしまいます。椎体がやや上向きの状態になると同時に顴骨の方へ近づいてしまいます。すると第3腰椎~第5腰椎でのくびれが消えてしまい、腰椎の前腕は消失してストレート腰椎になってしまいます。
 すると腰椎のところで上半身を反ることができなくなりますので、背中の辺り(下部胸椎)を反らして良い姿勢をつくるようになりますが、それがいわゆる「出っ尻出っ腹の反り腰」状態を招いてしまいます。

 つまり、下部僧帽筋がこわばっていることで肩甲骨は下がりながら後ろに歪み、背中は反り腰となり、お尻の中心(仙骨・尾骨)が後ろに飛び出た感じという体型になってしまいます。

胸腰筋膜胸腰筋膜

 正確にはわかりませんが、下部僧帽筋と上図の胸腰筋膜が連動関係にあって下部僧帽筋がこわばると胸腰筋膜もこわばってしまい、仙骨・尾骨を上方に引き付ける、あるいは腰椎を下方に引き下げるような状態になるのだろうと思われます。または、その反対に胸腰筋膜がこわばっていることによって下部僧帽筋もこわばってしまっているのかもしれません。
 ところで、このような状態になっている人たちは骨盤底筋(尾骨筋・腸骨尾骨筋)もこわばった状態になっています。骨盤底筋がこわばりますと尾骨周辺から会陰にかけて硬くなりますが、症状が強くなりますと軽く触れるだけでも「尾骨(尾てい骨)が痛い」という状態になることもあります。

 整体的観点では、骨盤が私たちのからだの中心になりますが、さらにその中でも仙骨・尾骨は中心の中心ですから、骨盤底筋が私たちのからだの筋肉(骨格筋)にとっては「大元=根本=本当の出発点」であると考えることもできます。
 そのように考えますと、今回話題にしているように下部僧帽筋がこわばり、胸腰筋膜がこわばって仙骨・尾骨が引き上げられ、さらに骨盤底筋もこわばっているという場合、骨盤底筋のこわばりが大元の原因である可能性が高いと考えられます。そしてこの理屈に基づいて考えますと、骨盤底筋のこわばりが解消されるようにすることで胸腰筋膜もゆるみ、下部僧帽筋のこわばりも解消すると考えることができます。
 私が施術した経験においては、この理屈は合っています。(但し、上記のように下部僧帽筋、胸腰筋膜がこわばり仙骨・尾骨が上方へ引き上げられ、骨盤底筋もこわばっていると状況の場合)
 あとは骨盤底筋がこわばる理由を追及する必要があります。何らかの理由があって骨盤底筋がこわばる分けですが、前述したように骨盤底筋は大元であり、骨格筋の出発点ですから、「別の筋肉の変調の影響を受けて連動関係でこわばっている」という考え方は私には受け入れにくいものです。
 つまり、「何らかの理由で自然と骨盤底筋を収縮し続けなければならない状況が常態化しているので、骨盤底筋がこわばっているはずだ」と私は考えました。するとやはり、足元の不安定さに思いが及びます。「足元がぐらぐらしているので、お尻(骨盤底)に力を入れていないと立ち続けたり、歩き続けたりすることができないのではないか?」と考えました。
 
 この考え方は合っていると思います。大概は足首の内くるぶしと踵内側の間くらいに問題を抱えていて、それが原因で骨盤底筋がこわばっていました。
 その場所はざっくり言うと踵の内側ですが、解剖学的に○○筋ですとか、△△筋膜ですとか、名称のついた部位で表現することはできません。人それぞれ、施術する場所が少しずつ違うのです。
 足首や足の骨格がぐらぐらしている場合、そのぐらつきを補うために簡単に表現しますと「足首を固めて安定させている」という状況が生じます。その結果、足首内側のアキレス腱が付着している辺りから踵内側の筋膜全体にかけての何処かに強くこわばっている部分ができますが、その強くこわばっている部分と骨盤底筋のこわばりが深く関係しているようです。

 このような場合、踵内側の深部の強いこわばりを持続指圧(上図右側)や揉みほぐしを行いゆるめることで骨盤底筋のこわばりも改善、解消していきます。それが対処法となりますが、もっと進んで考えますと、足首がぐらつかないようにその原因を探し出し、それを修正することが必要となります。
 足や足首の骨折や捻挫を経験したことがある場合は、それは原因の一つになっている可能性が高いと言えます。あるいは、歩き方が悪くて足首に負担が掛かっている場合も考えられます。歩き方、立ち方が改善するように整えることが専門家としての対応です。
 本人のセルフケアとしては、日々踵内側を揉みほぐすなどしていただくのが良いかと思います。

 繰り返しになりますが、下部僧帽筋がこわばっている人は肩甲骨が後下方に引っ張られていますので、常に首の後側から肩の後方にかけてハリ感や重さを感じていると思います。そして反り腰で出っ尻出っ腹の体型に近く、骨盤底も硬いので座り続けるとお尻(坐骨周辺)の硬さを感じると思いますし、人によっては尾骨が気になったり痛みを感じているかもしれません。
 このような状況においては、対策として踵内側の深部にある硬いところを指圧や揉みほぐしでゆるめることが有効です。

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