胸鎖乳突筋の鎖骨頭の変調がもたらす症状

胸鎖乳突筋の鎖骨頭

 一般的な解剖学の本や情報では、胸鎖乳突筋に胸骨頭と鎖骨頭があるとは記載されていますが、それぞれの働きや役割についてはほとんど言及されていません。
 しかし整体の現場では、この二つ(胸骨頭と鎖骨頭)を分けて考えないと施術がうまくいかない時があります。

 ところで、骨格筋の中には、例えば大腿四頭筋、大腿二頭筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋など「頭」(起始)が複数ある筋肉が幾つかあります。これらの筋肉を現在の一般的な解剖学では一つの筋肉として処理している傾向がありますが、これらは別々の筋肉が一つに合体したものであるとして考える必要があると私は考えています。そして、頭が二つの筋肉は、それぞれが拮抗関係にあるように働いていることを認識することは整体の現場では重要です。

 たとえば、胸鎖乳突筋の働きの一つとして頚部の屈曲がありますが、頚部を屈曲するとき、胸骨頭は収縮しますが鎖骨頭は反対にゆるんで伸張するように働きます。そして頚部の伸展においては反対に胸骨頭がゆるんで伸張し、鎖骨頭は収縮します。
 頚部の回旋においても同様です。頚部を右に回旋するとき、左側の胸鎖乳突筋が収縮するとされていますが、収縮するのは鎖骨頭であり、胸骨頭はゆるんで伸張します。
 以上のことが解っていないと、例えば「首を右に回すことができない」という症状を改善しようとする場合、①鎖骨頭が収縮できないからなのか? ②それとも胸骨頭がゆるまないからなのか? という考え方をすることができません。

 ①鎖骨頭が収縮できない状態が原因であるならば、大胸筋鎖骨部がゆるんでいたり、上部僧帽筋がこわばっていて鎖骨が頭部の方に近づく歪み方をしていたり、あるいは三角筋上部線維がこわばっていて鎖骨を外側に引っ張っていることなどをチェックして解決策を見いだす方向に施術を進めることが出来るようになります。

 ②胸骨頭がゆるまないのであれば、お腹の冷えや恥骨の位置が悪くて腹筋がこわばり、胸骨を下方に引っ張っているのかもしれないし、胸骨舌骨筋や胸骨甲状筋がゆるんでいて胸骨が下方に歪んでしまい、胸骨頭が引っ張られた状況になってこわばっている可能性が考えられます。あるいは、噛みしめや食いしばりの癖があって胸骨頭がこわばりゆるむことができないのかもしれません。

 ですから、胸鎖乳突筋に対してしっかりとしたアプローチをしようとするならば、せめて胸骨頭と鎖骨頭を区別して対応するスキルは必要となります。

鎖骨頭のこわばりと喉の不具合や不調

 喉(喉頭隆起)が歪んでいる人は結構います。歪み方が大きくなりますと嚥下がしにくくなったり、発声に影響が及ぶことがあります。喉の歪みに関しては舌骨、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋などが着目するところになりますが、その他に胸鎖乳突筋鎖骨部のこわばりが影響をしている場合もあります。

 首の前側を軽く触れるだけの微々たる刺激でも気持ち悪くなったり、何とも言えない不快感を感じる人がいました。喉の歪みもありましたし頚椎の問題もありましたが、それらを修正しても症状が完全に消えることはありませんでした。ところが胸鎖乳突筋鎖骨頭の強いこわばりを改善すると症状は消失しました。
 筋肉にはこわばると太くなる性質がありますが、こわばった胸鎖乳突筋の鎖骨頭が太くなって常に喉を圧迫している状態になっていたようです。胸鎖乳突筋鎖骨頭は胸骨頭の深部にありますので、その変調は喉の調子に影響を及ぼすことがわかりました。

 また、「胃がもたれる」「消化が悪い」「内臓が働いていないようだ」というような症状に対しても、胸鎖乳突筋鎖骨頭のこわばりが関係している場合があります。
 こわばっている鎖骨頭をゆるめるように施術するだけで急にお腹が動き出し、ゲップが上がってくるなど反応し、腹筋もドンドン動き出して、停滞していたお腹の動きが始動し始める現象が起こることもありました。そしてそれらの反応はやがて落ち着き、それでお腹の状態が良くなりました。
 この辺りの仕組みについての理屈の詳細は把握しきれませんが、喉も含めて消化器官(咽頭・食道・胃~小腸)と胸鎖乳突筋には密接な関係性があるのかもしれません。

 飲み込み(嚥下)がスムーズでなかったり、常に喉に圧迫感を感じているような場合、胸鎖乳突筋をチェックすることも必要であると認識しました。

鎖骨頭のゆるみすぎと目の状態

 時々「目が開かない」「いつも眠たい感じがする」と訴える人が来店されます。
 目の不調に関してはいろいろな要因が考えられます。パソコンやスマホなど同じところを見続けることによる眼精疲労も考えられます。頭部への血流が足りない(脳貧血)、頭部と体幹との間でのリンパや血液の循環が停滞している(鎖骨下動静脈)、頭部の中で脳の位置が歪んでいる(蝶形骨)‥‥等々、考えられます。

 そして、その中の一つとして胸鎖乳突筋鎖骨頭のゆるみ過ぎ状態があります。 
 これはエネルギーの流れに関係していると私は考えていますが、からだを前後(腹側と背側)に分けてイメージしたとき、前側のエネルギーが頭部までしっかりと上昇している状態でないと目の働きは乏しくなるようです。つまり、下腹部(骨盤)で生じたエネルギーがお腹→胸→前首→鼻→目と上昇している状態が理想的なのですが、それが何処か途中で上がってくることができなくなると目の働きが悪くなる、眠たさと同時に眠たい目になってしまう、瞼が重くなるなどの症状がもたらされるようです。
 そしてその中で、胸(鎖骨)で途絶えてしまい前首にエネルギーが上がらない状態のとき、胸鎖乳突筋鎖骨頭のゆるみ過ぎ状態が原因になっている可能性があります。もし今、目が、目力も含めてシャキッとしていない状況であるなら、鎖骨の際、胸鎖乳突筋鎖骨頭の停止部に指を入れて鎖骨の方にぐっと押し込んでみてください。それによって目の状態が少しでも変わる感じがするのであれば、胸鎖乳突筋鎖骨頭のゆるみ過ぎ状態が目の働きに悪影響をもたらしていると判断することができます。
(また反対に、鎖骨頭が強くこわばっている場合はエネルギー上部に上がりすぎて眼圧が高くなるような、眼球に圧迫感を感じるような状態になることもあります。胸筋や喉周辺のこわばりと鎖骨の位置、それらと鎖骨頭のこわばりは関連性があるかもしれません。)

 エネルギーや氣のことは、目に見えたり触って感じたりすることができるものではないので、なかなか捉えにくいものではありますが、心を静かにして感覚を鋭敏にすれば微かな変化を感じ取ることができます。そして、実際のところ肉体を動かしているのはエネルギーですから、セラピストとしては訓練して感覚を鋭敏にすることが求められます。

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