腰痛、股関節まわりの症状と大腿方形筋

 股関節で大腿骨を外旋する働きをする筋肉の一つに大腿方形筋があります。また、その他に股関節の外旋に関わる筋肉としては、梨状筋、大殿筋、上双子筋、下双子筋、そして短内転筋と大腰筋、腸骨筋があります。

 大腿方形筋は座位における骨盤の安定に対して要となる筋肉であると言えます。
 大腿方形筋がこわばると坐骨を大転子の方に引きつけますので、座位において坐骨間が広がって骨盤が潰れた状態になります。また、それだけでなく尾骨筋や腸骨尾骨筋などもこわばって骨盤底に変調をもたらしますので、それによるいろいろな症状を引き起こします。
 さらに大腿方形筋がこわばりますと、大転子(大腿骨)を外旋させますが、それは大転子を後方に歪ます状態を招きます。すると大腿筋膜張筋や小殿筋に直接的に変調をもたらしますが、間接的に中殿筋や大殿筋も変調することになります。
 股関節の調子が悪く、併せて腰痛の症状がある場合など、大腿方形筋は確認すべき筋肉の一つです。

大腿方形筋のこわばりによる影響

大腿方形筋の「こ」と骨盤底

・殿部がパンパン‥‥中殿筋のこわばり
 大腿方形筋がこわばっている場合、坐骨結節が大腿骨(大転子)の方に引き寄せられますので、仙腸関節で腸骨下部が外側に歪みます。そしてその影響で殿部(腸骨)の上方にこわばった固まりが生じるようになります。それは中殿筋のこわばりです。

・骨盤底(会陰)の変調‥‥内臓下垂に繋がる可能性
 上記のように坐骨結節が大腿骨の方に引き寄せられますから、骨盤底は強制的に広がるようになります。骨盤底筋(尾骨筋や腸骨尾骨筋)は硬くこわばりますが、骨盤底全体としては弾力性が弱まる感じになります。骨盤底は生殖器や肛門の器官に影響をもたらしますが、それだけでなく小腸をはじめ腹部の臓器を支える働きをしていますので、内臓下垂や下腹がぽっこり出てしまうような状態を招く可能性があります。

・股関節から下のむくみ
 大腿方形筋がこわばりますと大腿骨が外旋する他、大腿骨が後方に歪みます。それによって直接的に大腿筋膜張筋や小殿筋が変調を起こしますが、大腰筋や腸骨筋も影響を受けることになります。そして、それは鼡径部(スカルパ三角)で大腿動脈、大腿静脈の流れに影響を与える結果をもたらします。
 上半身にはむくみが見えないのに、股関節や鼡径部から下の下肢全体にむくみがある場合、それは大腿静脈の流れに問題が生じていることが考えられ、その一つの要因として、大腿方形筋のこわばりによる股関節の歪みがあります。

・腰痛など
 大腿方形筋の変調が直接的に腰痛の原因になることはないと考えられます。しかし、骨盤や股関節が歪むことは腰痛の原因になります。

・下肢の外旋力が弱くなる‥‥大腿方形筋の疲弊やゆるみ過ぎ状態
 大腿方形筋は下肢が外旋する動作をしっかり支える働きをします。たとえば、バレリーナやダンサーが右脚を軸にして左側後方にからだを向ける動作をする場合、大腿方形筋がしっかりしていないとスムーズに動作を行うことができなくなります。バレリーナの動作に膝を外側に開いた(下肢を外旋させた)状態で膝を屈したり伸ばしたりするものがありますが、大腿方形筋の働きが悪い状態ですと、それが気持ちよくできなくなります。
 大腿方形筋はとても短い筋肉ですが、下半身と上半身を連動させて動かすような時にはとても重要な働きをします。

大腿方形筋が変調する理由‥‥筋連動

 尻餅をつく、殿部を強く打撲するなど、筋肉を損傷する状態を除いて大腿方形筋がゆるんだ状態になることは考えにくいことです。また、下半身を外旋する動作をたくさんする、偏った座り方で長時間座り続けるなどの他に、大腿方形筋が直接こわばることも考えにくいことです。
 しかしながら多くの人は大腿方形筋が変調状態にありますが、その理由は何でしょう?

 それは筋連動による変調です。つまり、連動関係にある筋肉が変調しているために大腿方形筋も変調しているという状態です。
 大腿方形筋は手首の方形回内筋、足裏の足底方形筋と連動関係あります。

 手首の方形回内筋は手首を内側に捻る働きをします。肘をしっかりと屈曲させた状態で手を内側に回す動作では、肘関節の近くにある円回内筋を働かせて動作を行いますが、肘が伸びた状態で手首を内側に捻ろうとするときは方形回内筋が主動筋となります。その他にもパソコンのキーボードでスペースキーを叩くときに母指を使う場合、方形回内筋を作動させますし、包丁を使うときも最後に手首を微妙に内側に捻りますが、方形回内筋が作動します。これらのように方形回内筋は知らず知らずのうちに、無意識状態で頻繁に作動させている筋肉ですから、現代社会生活を営んでいる人の殆どは方形回内筋がこわばった状態になっています。つまり、連動する大腿方形筋もこわばっている可能性がとても高いと考えられます。

 足裏の足底方形筋は、バランスの良い歩き方や立ち方をしている人はそれほどこわばっていませんが、小趾側に体重が乗ってしまっている人などの場合、結論としては足底方形筋がこわばっています。そしてさらに、歩き方や立ち方に関係しますので、加齢とともにそのこわばり具合は強くなっていると言えます。

 足裏は四層になっています。表層には筋肉ではなく分厚くなった皮膚(=筋膜)があり、その次に指先ではなく指の根元(MP関節など)を動かす強力な筋肉があります。そして次の第三層に足底方形筋がありますので、足底方形筋を揉みほぐしたり指圧しようとした場合、表層と第2層の筋膜と筋肉を柔らかくしないとアクセスできません。
 実際の施術では、足底の筋膜をほぐしながら次の層、次の層へと施術を進めていきますので最初の段階は心地良く感じるかもしれません。そして第2層の筋肉はやはり硬くなっている人が多いので、心地良い段階から「痛気持ちいい」段階に進みます。第2層が柔らかくなりますとようやく足底方形筋にたどり着きますが、その時に「この筋肉は板のようだ」と感じますが、それをほぐすにはかなりの力が要求されます。そして、施術を受けている方もかなりの痛みを感じるようになりますし、人によっては声を出さずにはいられなくなるほど痛みを感じます。しかし、ここで止めてしまうと何の意味もありませんので、痛みに耐えていただきながらほぐしているのが実状です。

 また、足底方形筋は長趾屈筋と関連性があるようで、長趾屈筋がゆるんでいると足底方形筋がこわばる状況があります。
 おそらく、長趾屈筋の働きが悪いので歩行時など足趾に力が入らないのを補うために短趾屈筋や足底方形筋をたくさん使うからではないかと思われます。
 実際、長趾屈筋がしっかりと働くことができる状況に整えますと、足底方形筋の強いこわばりが改善するようになります。

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