私たちは背骨(脊椎)を持った脊椎動物です。脊椎動物の起源は5億年前に遡り、今なお東北地方で食材として親しまれている海鞘(ホヤ)など原索動物が始まりだったと考えられています。
脊椎動物のはじまり
成体としての海鞘は一つの袋状の動物で、外見的に、頭と尻が分かれているわけではありませんが、その一つのからだの中に脊椎動物が持っている基本的な構造(器官)を殆ど有しています。
将来、魚に進化した時に頭部近くに位置する鰓孔(えらあな)は肛門や生殖器と隣接していますので、「尻の真横に顔がある」ようなものとだと言えます。
つまり、骨盤と頭は非常に近い存在だったのです。ですから、私たちのからだでは間に長い背骨があって離れている頭部と骨盤は、「実は密接な関係があるかもしれない」と考えることも出来ます。
私たちの遠い祖先が太古の海に漂いながら幸せに暮らしていた頃、つまり、まだ「天敵」という存在が現れる以前のことです。動物は恐怖を感じることもなく、何かから逃げる必要もなかったようです。ですから、からだを緊張状態にして、逃走や戦闘モードにする交感神経は存在していなかったと言います。原初の生物の自律神経は、今で言う副交感神経系だけだったとも考えられています。
ところで、私たちの意志とは殆ど無関係に働いている自律神経は交感神経と副交感神経に分かれていますが、互いに拮抗し合いながら働いているとされています。
そして交感神経は主に血管(動脈)をコントロールしていて心身を緊張状態にする働きをしています。副交感神経は主に内臓の働きをコントロールしていますが、その他、緊張をゆるめ、リラックス状態をもたらす働きをしています。
原初の魚など、天敵が現れる前の生命は海の波に身を任せながら口を開いているだけでプランクトンなどの食物が自然とからだの中に入ってきました。その食物が細長い腸管を通過している間に消化吸収して、栄養とし、尿と糞を作って老廃物を排出していたわけですが、この一連の腸管の働きをコントロールするために副交感神経ができたと考えられています。
食べて、寝て、出すだけの非常にのんびりした存在が太古の生命だったようです。
そして、この名残は私たちのからだにもしっかり残されています。
私たちの副交感神経は頭の延髄(迷走神経)と腰部の仙髄の二手に分かれて出ていますが、その間の背骨(胸髄、腰髄)から交感神経がでています。
延髄から出ている副交感神経(迷走神経)は主に消化吸収系の働きをする臓器や器官をコントロールしていて、仙髄から出ている副交感神経は生殖機能と排出機能をおこなう臓器や器官をコントロールしています。
「元々、頭と骨盤はくっついていたものだったので、延髄と仙髄も一つのものとして副交感神経をコントロールする存在だった。それがいつの日か、頭と骨盤が分かれるようになり、副交感神経も分かれた。そして、その間にできた脊椎(背骨)から心臓や動脈をコントロールして興奮や緊張状態をつくり出す交感神経がうまれた。」
このような考え方が成り立つと思われますが、このように考えますと、からだの見方がスッキリするかもしれません。
ですから整体的な観点でからだを眺めたとき、頭蓋骨と骨盤はとても深い関係があり、特にそれぞれの中心的存在である後頭骨と仙骨は、からだを整える上でとても重要な存在であると考えることができます。
頭蓋骨と骨盤の共通点と特徴
- 後頭骨を中心にその隣接に頭頂骨、側頭骨があり、呼吸に合わせてそれらの骨が動き、頭蓋骨が膨らんだり(吸気時)縮んだり(呼気時)しますが、同様に骨盤も仙骨を中心に左右の腸骨が呼吸に合わせて動き、骨盤が拡がったり(吸気時)縮んだり(呼気時)します。
- 頭蓋骨と骨盤は上下を反対にしたような関係性があります。つまり、頭蓋骨の上下を反転させた状態が骨盤に似ています。
息を吸ったとき後頭骨は上方へ動きますが、仙骨は下方に動きます。息を吐くときはそれぞれ反対の動きをします。
何かの理由で仙骨が下がりますと後頭骨は上がります(例外はある)。加齢にしたがって背中の筋力が弱くなり、骨盤が後傾してお尻が下がってしまう人がたくさんいますが、このとき仙骨も下がった状態になっています。すると後頭骨は上がった状態になりますので、後頭骨と反対側にある顔面は下がってしまいます。ですから骨格的に、「加齢にともなって私たちはお尻が下がり、顔が下がる傾向がある」と言うことができます。
骨盤の構成
骨盤は仙骨、尾骨と左右の寛骨でできています。肩甲骨が上肢帯と呼ばれるように寛骨は下肢帯として下肢(脚)を体幹に結び付けて動かす働きをします。
そして寛骨は元来別々の骨であった腸骨、坐骨、恥骨が癒合して形成されたものです。
「仙腸関節」は広く知られている骨盤の関節ですが、骨盤はその安定性を保つためにいくつかの強力な靱帯を持っています。
そして、長い間「仙腸関節は靱帯でガチガチに固められているので、ちょっとやそっとでは動かない」と考えられていたようですし、今でもそう考えている医師や学者が多いかもしれません。しかし、それはまったくの錯覚です。
正確なところでは、「仙腸関節は多くの強い靱帯で固められたように保護されているので、大きく動くことはできないが、動くようになっている。関節になっているということは動くようにできているということ。実際は呼吸する度に仙腸関節は動いているし、もし動かないとすれば、呼吸に問題が起こる可能性がある」となります。
からだを観察して施術する上で、骨盤の在り方は非常に重要な目安です。
右利きの人も左利きの人も、そのからだの使い方に従って、そのように骨盤が多少歪んでいるのが普通です。ですから、外見だけを重視して、骨盤をきっちり完璧に矯正しようとすることばかりにこだわらない方が良いでしょう。
骨盤は、からだの中心ですが、それは外見だけでなく、機能的にも中心であるといった観点が大切です。
そのからだは、動作をするときに「骨盤からの力を使えているか?」といったことが快適なからだを築く上では重要です。立位の時も、座位の時も、歩行の時も、立ち上がる動作も、骨盤を中心に行われる状態が理想的な在り方です。