骨格の観察(2)‥‥鎖骨・肋骨の観察と影響部・被影響部

 体幹前面の骨格の観察では鎖骨と肋骨の観察がしっかり行えることが大切です。
 鎖骨は肩甲骨と一体となって上肢帯を形成しています。つまり、上肢の動きに関して要となる骨格です。いわゆる四十肩・五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎においては鎖骨の状態が絡んでいるケースが多く見受けられますので、肩甲骨も含めて鎖骨の状態をしっかり観察できる能力は肩関節の問題に関しては必要不可欠です。
 12本の肋骨と胸椎が胸郭を形成しています。胸郭の内側には肺や心臓といった私たちの生命維持にとって非常に重要な臓器がありますし、呼吸運動の要である横隔膜は肋骨を起始としていますので、胸郭の在り方、つまり肋骨の状態はとても重要です。
 息苦しい、呼吸が浅い、血液循環が悪い、胸が圧迫されているなど、肋骨は「快適に過ごせない」ことの原因になり得る骨格です。
 さらに、ストレスを感じると胸が閉じる、心が高揚すると胸が開くなど、心情の変化によって肋骨は変化しますが、つまり肋骨は変化しやすい、歪みやすい骨格であると言うことができます。

鎖骨と肋骨の観察

 実際の臨床では、骨格はいろんな状況に歪んでいます。
 長軸(=脊柱)に対して時計廻り(CW)や反時計回り(CCW)の捻れ方だけでなく、胸骨が凹むように肋骨が変化したり、あるいは胸郭の厚みが厚くなったり薄くなったり、胸郭全体が細くなったり平べったくなったりと様々に変化します。
 ところが、その状況を最初から把握することはなかなか困難です。脊椎の観察同様に、あるいはそれ以上に基礎練習を繰り返して感覚を磨くことが求められます。

 まず初期の段階では、長軸(脊柱)に対しての捻れ方を把握することから練習を始めます。

 仰臥位の被験者の頭部に座った状態で両手手指を鎖骨、第1肋骨、第2肋骨、第3肋骨‥‥に当てた状態で、軽く左右に動かして、骨の捻れ具合を観察します。

 骨格の歪みを観察するときの注意事項としては、軽い力で動かして「骨の動きを観察する」ことが大切です。骨を自分の力で動かしてしまっては、歪みは観察することはできません。
 自分の感覚が分からなかったり、判断に迷ったり、自信が持てなかった場合は、さらに力を弱めて観察し直すようにします。
 そして、それでも混乱して判断できないときは、何も考えず、骨格を動かしている自分の手指の動きを単に見てください。余計な力を入れて動かさない限り、手指は正確に骨の歪みを反映して動きます。

 また、骨格の歪み(骨動揺)を観察するときには先入観を捨てて、まっさらな心で観察できるよう訓練してください。

 肋骨に関して言えば、肋骨は胸椎の捻れの影響を受けて歪みますし、肋骨の影響を受けて胸椎が歪むこともあります。
 第1肋骨には前斜角筋と中斜角筋が付着していますし、第1胸椎には小菱形筋付着しています。第2肋骨には後斜角筋が付着していますし、第2胸椎には大菱形筋が付着しています。第3肋骨には小胸筋が付着していますし、第3胸椎には大菱形筋が付着しています。第4肋骨には小胸筋が付着しています。さらに第1から第3胸椎にと第2~第5肋骨には上後鋸筋が付着しています。また、胸郭には前鋸筋が付着していますし、肋骨間には外肋間筋や内肋間筋も付着しています。
 ですから、これら筋肉群の影響を受けて胸椎も肋骨も独自の歪み方をしますので、鎖骨から肋骨および胸椎においては歪み方に法則性というものはないと考えた方が妥当です。(右足重心の人は右肩甲骨が外転している傾向があるので、それに合わせた歪み方の傾向はあります)

一つの例として、ビデオの状況について解説してみます。

  1. まず、骨格の歪みを確認する上で、第1から第5肋骨の位置を把握するために、手指を当てて一通り確認します。被験者が女性の場合は、胸へのタッチに気をつけて胸骨付近にタッチするのが良いでしょう。
  2. 鎖骨の観察では、両手手指の母指を肩甲骨付近において動作の支えとし、できれば中指を中心に手指で鎖骨を捉え、右(CW)と左(CCW)に軽く動かします。そして、自分の動かす手指をすんなり受け入れて動く方向を確認します。

     この場合は、右に動きますし、左に動かすように力を加えますと、その力に抵抗して反発する力が返ってきます。ですから、鎖骨は右(CW)に歪んでいると判断します。

     次に、左右の鎖骨における影響部と被影響部を確認します。
     この場合の影響部と被影響部の考え方は、以下の通りです。
     左右一対としての鎖骨はCWへの歪みですが、左鎖骨か右鎖骨のどちらかがCWに歪んでいるので鎖骨全体がCWに歪んでいると考えます。ですから影響部と被影響部を判断するときには、どちらかの骨の歪みを正した状態にしたときに他方の骨が歪むかどうかを観察します。

     ビデオでは、左鎖骨の歪みを左手で正して(止めて)、右鎖骨がCWに動くかどうかを観察しています。結果として右鎖骨はCWに動いています。ですから、左鎖骨の状態に関係なく右鎖骨はCWに歪んでいることがわかりました。

     次に反対を確認するために、右鎖骨のCW状態を正した上で左鎖骨がCWに歪むかどうかを確認します。結果として左鎖骨はCW状態になりませんので、左鎖骨は右鎖骨の歪みの影響でCWに歪むと判断することができます。

     ですから、鎖骨がCWに歪んでいることにおいては、右鎖骨が影響部で、左鎖骨が被影響部であると断定することができます。

  3. 次に第1肋骨の確認です。
     第1肋骨は胸鎖関節のすぐ下で触れることができますが、すぐに後方へカーブしていますので、通常は「しっかり触る」ことはできません。ですから、指先の感覚をより繊細にする心構えで観察を行ってください。

     左右両側の第1肋骨の歪み方も鎖骨同様CWです。
     そして左第1肋骨のCWの動きを止めた状態で、右第1肋骨の動きを観察しますとCWに動いてしまいます。
     反対に右第1肋骨のCWの動きを止めますと、左第1肋骨のCWの動き(歪み)は消失します。
     ですから、右第1肋骨のCWの歪みが影響部であり、左第1肋骨が被影響部となりますが、左右両側の第1肋骨のCWの原因は右第1肋骨にあることが分かります。

  4. 第2肋骨の観察において、左右両側の第2肋骨は第1肋骨とは反対にCCWの歪みをしています。
     左第2肋骨のCCWの動きを止めた状態で、右第2肋骨の動きを観察しますとCCWに動いてしまいます。
     反対に右第2肋骨のCCWの動きを止めますと、左第2肋骨のCCWの動きは消失します。
     ですから、右第2肋骨のCCWの歪みが影響部であり、左第2肋骨が被影響部となりますが、左右両側の第2肋骨のCCWの原因は右第2肋骨にあることが分かります。

  5. 第3肋骨の観察では、第2肋骨同様左右両側の第3肋骨はCCWの歪みをしています。
     左第3肋骨のCCWの動きを止めた状態で、右第3肋骨の動きを観察しますとCCWに動いてしまいます。
     反対に右第3肋骨のCCWの動きを止めますと、左第3肋骨のCCWの動きは消失します。
     ですから、右第3肋骨のCCWの歪みが影響部であり、左第3肋骨が被影響部となりますが、左右両側の第2肋骨のCCWの原因は右第3肋骨にあることが分かります。

  6. 第4肋骨の観察では、左右両側の第4肋骨は第2・第3肋骨とは反対のCWの歪みをしています。
     左第4肋骨のCWの動きを止めた状態で、右第4肋骨の動きを観察しますとCWに動いてしまいます。
     反対に右第4肋骨のCWの動きを止めますと、左第4肋骨のCWの動きは消失します。
     ですから、右第4肋骨のCWの歪みが影響部であり、左第4肋骨が被影響部となりますが、左右両側の第4肋骨のCWの原因は右第4肋骨にあることが分かります。

  7. 最終的な影響部を特定
     これまでの観察で、鎖骨および第1~第4肋骨の歪み影響部はすべて右側であることがわかりました。
     ですから今度は、上記の骨の中での影響部と被影響を観察し、最終的にどの骨格を修正すれば全体が整うのか? という段階に進みます。

     第1肋骨と第2肋骨を比較することから始めますが、第1肋骨と第2肋骨では、第1肋骨が影響部であることが分かりました。
     ですから次に、上記の影響部である第1肋骨と第3肋骨を比較します。
    (上記で仮に第2肋骨が影響部であれば、第2肋骨と第3肋骨を比較することになります。)

     この比較においても影響部は第1肋骨であることがわかりましたので、次に第1肋骨と第4肋骨の比較に進みます。そしてこの比較においても第1肋骨が影響部であることがわかりましたので、第1肋骨~第4肋骨の歪みの最終的な影響部は第1肋骨であり、第1肋骨のCWの歪みが修正されれば、これらの肋骨はすべて整うと判断することができます。つまり施術して修正すべき対象は右第1肋骨となります。
    (ビデオでは鎖骨と肋骨の比較を行っていませんが、右第1肋骨のCWの歪みと鎖骨の影響部である右鎖骨のCWの歪みを比較して、影響部と被影響部を決定して、影響部の方を修正するよう施術に進みます。)

影響部と被影響部の比較検査での注意事項

 仮に、右鎖骨のCWの歪みと右第1肋骨のCWの歪みを比較したときに、影響部と被影響部の関係にならないこともあります。
 つまり、右鎖骨のCWの動きを止めても右第1肋骨のCWの動きは止まらず、反対に右第1肋骨CWの動きを止めても右鎖骨CWの動きは止まらない場合もあります。
 鎖骨と肋骨の歪みがそれぞれ別の理由によるものである場合は、そのようになりますので、この点を頭に入れておくよう注意が必要です。
 「絶対どっちかが影響部であるはずだ!」という思い込みに陥りますと、観察する手指に力が入ってしまい、観察の正確さが失われることになりますし、頭の中も混乱して施術が前に進まない状況になってしまう可能性があります。
 
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